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社説・コラム

社説 広島サミット 経済安保 敵対でなく協調を土台に

 新型コロナウイルスの世界的流行やロシアのウクライナ侵攻で再認識されたのが、経済安全保障の重要性だろう。サプライチェーン(供給網)の寸断による世界的な生産停滞や、原材料の高騰に伴うインフレ拡大に各国は苦しめられてきた。

 その中で急浮上しているのが「経済的威圧」の問題である。重要鉱物や天然資源を持つ国が優位的立場で圧力をかけることは容認しがたい。今月4日の先進7カ国(G7)貿易相会合でも主要議題になった。

 広島市で来月開かれる首脳会議(G7サミット)でも取り上げられる。経済活動の根幹を成すルールづくりに異論はない。サミット議長国の日本が主導的役割を果たしたい。

 貿易相会合に出席した西村康稔経済産業相は、会合後に「経済的威圧に共同で対応を検討する点でG7各国は一致した。協力をさらに具体化したい」と述べた。広島サミットでは、威圧行為をする国への輸入関税の引き上げや、輸出入許可の制限など、新たな手段を議論することになるのだろう。

 名指しされてないものの、対象国として中国、ロシアを想定しているのは言うまでもない。

 中国は関係が悪化したオーストラリアに対し、年2兆円近い石炭やワインなどの輸入を突然制限した経緯がある。ロシアはウクライナ侵攻後、原油や天然ガス輸出を急に停止し、欧州の結束を揺さぶった。

 貿易相会合に前後して、中国が電気自動車などの製造に欠かせない高性能レアアース(希土類)磁石の製造技術の禁輸を検討していることも明らかになった。圧倒的シェアを持つ磁石の供給網を武器に、各国をけん制する思惑は見え見えだ。

 政治的に対立する国への輸出入などを制限し、不当に圧力をかけることは許されない。その一方で、中ロ両国が反発を強め、国際社会に背を向ければ、世界経済に計り知れない影響が及ぶ。対立をエスカレートさせない熟慮と粘り強さがG7各国にも必要だ。

 米国による中国への半導体規制も、自国の利益を最優先した「経済的威圧」に見えなくもない。トランプ前政権の独善的な「アメリカ・ファースト」はどうだっただろう。

 拡大する中国の軍事的脅威を考えれば、半導体の一定の供給制限はやむを得ない判断かもしれないが、少なくとも中ロ両国には威圧に映るのではないか。

 インドやインドネシアなどに代表される「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国の見方が気にかかる。半導体規制を米国本位の対中封じ込め策と受け止めれば「経済的威圧」をめぐる議論はたなざらしになりかねないからだ。

 インドやインドネシアは広島サミットの拡大会合に招かれている。先進国主導のルール形成に反発や不満が強い国々の合意を、どう取り付けるのか。議長国としての日本の調整力が問われることになる。

 対立の構図を先鋭化させるのではなく、幅広い国々と共に解決策を探ることが経済安保には求められている。それが、食料や気候変動、感染症など地球規模の他の安全保障政策にもつながる。各国が協調できる広範囲な合意づくりの土台を広島サミットでぜひ築いてもらいたい。

(2023年4月9日朝刊掲載)

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