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爆心地から文化 志に共鳴 山下陽光さん 鞆で「アトム書房」展

 被爆から間もない広島の爆心地に「アトム書房」という古書店があった―。異彩を放つその存在に注目するのは、長崎県諫早市に住むアーティスト山下陽光(ひかる)さん(36)。調査と発見を重ねた成果を福山市鞆町、鞆の津ミュージアムで披露している。

 アトム書房は1946年から50年ごろまで、原爆ドームそばの広島市猿楽町(現中区大手町1丁目)にあった。当時20代の杉本豊さん(故人)が親族の土地に開店。山下さんが探し出した雑誌記事によると、「不毛のヒロシマに文化を育てたい」「すぐ立ち直るぞ、と進駐軍に示したい」との思いだったという。

 山下さんは東京在住だった2012年、ネット上で偶然、アトム書房の写真を見つけた。福島第1原発事故の後、反原発デモに繰り出しつつ表現を模索していた頃。「こんな手もあるかと驚いた」。広島へ通って資料や関係者をたどっていった。

 魅了されたのは、そのたくましさ。アトム書房は、開店の志はさておき、本がさっぱり売れなかったらしい。オーストラリア人記者による当時のリポートによると、専ら外国人観光客を相手に被爆で溶けたガラス瓶などを売っていた。

 「店の名前といい、不謹慎でずぶとい。今では失われた心意気」と山下さん。さまざまな発見があった調査を実況中継のような文にまとめ、展示室の壁に貼り出している。

 山下さん自身、「店」にまつわるパフォーマンスアートで知られる。ただでもらった物をただで売る「0円ショップ」を開いたり、「中古の千円札」を950円で売ったり、経済の常識に挑んでは行き詰まる。アトム書房への共感は人一倍のようだ。

 最近の「発見」は、スーパーで買ったミョウガのトレーに、スマートフォンの人気機種がぴったり収まること。そんな訳で、展覧会のタイトルは「山下陽光のアトム書房調査とミョウガの空き箱がiPhoneケースになる展覧会」とした。発見がもたらす人生の楽しさを、苦笑を誘いつつ伝えてくれる。3月23日まで、月曜休館。入場料500円、小学生以下と障がい者は無料。(道面雅量)

(2014年2月25日朝刊掲載)

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