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ブラジル被爆者の苦難の証言を継承 資料計50キロ分 広島県医師会、散逸防ぐ

 南米で被爆者の健康相談を担ってきた広島県医師会が、2020年末に解散したブラジル被爆者平和協会の資料を受け継いだ。広島市東区の県医師会館で10日あった受領式で、ブラジルから届いた段ボール箱を開封した。健康不安を抱えながら暮らし、母国の支援を求めた被爆者の苦難の記録を発信する。(衣川圭)

 資料は6箱分で計50キロ。現地に住む被爆者の名簿や、日本政府に援護を求める要望書など約60種類に及ぶ。被爆者に心身の状況や暮らしぶりを尋ねた1988年の実態調査には「のこり少ない人生をゆたかに送りたいので、1日も早く(被爆者健康)手帳がもらえたらと思う」などと書き込まれていた。今後、広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)が資料を解析する。

 受領式で県医師会の松村誠会長は「どんな過酷な運命を歩かれたかがこの資料に詰まっている。被爆の真の事実を伝えていく」と決意を述べ、寄贈に感謝した。一部の資料はことし8月ごろに県医師会館で展示する予定という。

 平和協会は84年、在ブラジル原爆被爆者協会として発足。南米の被爆者を掘り起こし、被爆者援護法の枠外に置かれた被爆者の実情を訴えてきた。20年、援護の充実やメンバーの高齢化を背景に現地政府の登録団体としての活動を終えた。翌年からは在ブラジル原爆被爆者の会が資料の保存を担ってきた。

 資料の寄贈は、原医研の所長を務めた鎌田七男名誉教授が5年ほど前から親交の深い協会理事と話し合い、散逸を防ぐために実現した。鎌田名誉教授は「ブラジルの被爆者の足跡を語り継いでほしい」と願った。

 厚生労働省によるとブラジル在住の被爆者は22年3月時点で76人。最多だった08年と10年の162人の半数を切った。県医師会は国の委託で県が実施する南米の被爆者の健康相談事業に85年から医師を派遣。20回目の昨年はブラジル・サンパウロで33人の相談を受けた。

(2023年4月11日朝刊掲載)

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