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社説・コラム

『ひと・とき』 映画監督 山田火砂子さん 実写版「ゲン」 今なお意義

 「この国は同じようなことを繰り返している」。今年2月、故中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」が広島市立小の平和教育の教材から削除されるニュースに古い記憶がよみがえり、憤りを覚えた。「戦争へ向かっているのだろうか。若い世代にはもっと危機感を持ってほしい」

 夫の故山田典吾監督を支えるプロデューサーとして実写版「はだしのゲン」3部作を手がけ、1976~80年に公開した。きっかけは、内容が残酷なため「週刊少年ジャンプ」の連載が中止されるというニュース。「映画にするべきだ」と中沢さんを説得した。

 典吾監督は、佐伯区出身の故新藤兼人さんと独立プロ「近代映画協会」を設立するなど親しい間柄だった。新藤組が「原爆の子」(52年)の広島ロケで使った西区の丸中旅館を紹介してもらい、撮影拠点にした。「資金はないのに雨が続いて撮影がどんどん延びた。みんないらいらして、けんかばかりしていた」と苦笑いする。劇中に登場する愛らしいアヒルは、広島城のお堀から借りた。

 新藤さんが脚本を手がけ、竹原市で撮った典吾監督「白い町ヒロシマ」(84年)とともに、3部作は広島市映像文化ライブラリーにフィルムが収蔵されている。「世の中が少しでもよくなることを願い、映画を撮り続けてきた。もう二度と日本を戦場にしないでほしい」と力を込めた。

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 三国連太郎と左幸子がゲンの両親を演じた「はだしのゲン(第一部)」が15日午前10時半と午後2時、中区の合人社ウェンディひと・まちプラザで上映される。800円。実行委員会☎082(285)8165。(渡辺敬子)

(2023年4月13日朝刊掲載)

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