×

連載・特集

2023統一選 市議選を前に <2> 呉市「観光振興」

大和頼み 眠れる他の資源

消費額3倍 達成には連携を

 平清盛が切り開いたと伝えられる呉市の音戸瀬戸。県内有数の景勝地を望む山の上に広がる「音戸の瀬戸公園」(警固屋)は4月、美しい景観が楽しめる。上旬は桜、下旬はツツジが見頃だ。花見に来ていた広島市南区の自営業女性(27)は「休憩できないのが残念。カフェぐらいあればいいのに…」と周囲を見渡した。

 園内に観光客が立ち寄れる施設はない。音戸大橋付近にあったレストランは2019年、国民宿舎音戸ロッジ跡にできた温浴施設は21年にいずれも営業を終えた。22年には土産物などを販売する「観光ハウス」も取り壊された。いずれも更地のままの状態が続く。

先細る個人消費

 市内の観光消費額を3倍にする―。市は21年度に策定した観光振興計画で壮大な目標を掲げた。19年の観光消費額249億円を「将来的に800億円にする」という。背景には、人口減少や日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区の閉鎖の影響がある。先細る見通しの個人消費を観光消費で補おうという算段だ。

 呉市の観光客数は、大和ミュージアムが開館した翌年の06年の495万人をピークに減少傾向だ。同ミュージアムには年90万人前後が訪れる。市は開館20周年に当たる25年度から順次リニューアルする計画で、さらなる誘客を目指す。

 一方で、呉の観光は「大和頼み」が指摘される。市が掲げる目標の達成は、宿泊者数や滞在時間を増やすことが鍵となる。そのためには音戸瀬戸など市内に点在する観光資源をどう生かすかにかかってくる。

宿泊巡り懸念も

 資源は他にもある。例えば米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」のロケ地にもなった安芸灘諸島。「とびしま海道」は、サイクリストに人気が高い。大崎下島と大崎上島(大崎上島町)を結ぶフェリーを使えば、竹原から大崎上島経由で入れる。岡山大自転車競技部監督の藤原龍治さん(56)は「魅力的なルート。コンパクトで御手洗の古い町並みを楽しめる」と話す。

 宿泊施設を巡っては懸念材料もある。市内最大規模の約300人が宿泊できる大規模保養施設「グリーンピアせとうち」(安浦町)が、23年度限りで運営を終える予定だ。市は有効活用を目指し民間に売却か貸し付ける方針だが、宿泊機能が残るかどうかは見通せていない。

 資源を生かしエリア全体の魅力としてアピールし、観光消費につなげるためには、行政組織内の横断的な連携も必要となる。相応の覚悟がなければ、壮大な目標の達成は難しい。(上木崇達)

(2023年4月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ