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社説・コラム

『想』 岩井梅子(いわいうめこ) 私と虹橋の会

 中国・大連市で中国残留邦人として生まれ育った私は1996年、50歳のとき日本に帰国しました。中国では漢方薬剤師として働いていましたが、日本ではこの資格が通用しません。他の仕事を探していた時、偶然、和紙ちぎり絵に出合いました。

 幼い頃から手芸が大好きだった私は、和紙をちぎって貼って水彩画や油絵のような作品を生み出すちぎり絵に感動を覚えました。98年末からは夢中でちぎり絵を習い、上手に作れるようになったらこの素晴らしい文化を中国の人々に伝え、日中友好と交流の架け橋にしようと、心に決めたのです。

 2002年には全国和紙ちぎり絵サークルから「和紙ちぎり絵講師認定書」を授与していただきました。その後、「虹日中文化交流会」という団体を設立。大連の小学校などを訪れ、ちぎり絵を紹介してきました。

 しかし、残留孤児である私一人で、異文化伝承の活動をするには限界があります。そのため「NPO法人虹橋の会」を11年に発足させました。日本人と中国帰国者、中国人会員で活動を始めました。現在、会員は50人となりましたが、和紙ちぎり絵と平和を象徴する折り鶴を中国へ紹介し続けています。

 振り返ると、この20年間で10回以上講師を派遣し、北京をはじめ計14都市の延べ約6300人にちぎり絵を紹介したことになります。交流が深まるにつれ、日本の文化を伝えるだけではなく、中国の伝統武術である太極拳と切り絵細工の剪紙(せんし)も日本に紹介するようになりました。

 19年には尾道市の平山郁夫美術館から、平山画伯の作品をちぎり絵で模写する提案をいただきました。平山画伯の深みのある表現は、和紙の繊維が創り出す繊細な表情と調和します。今月17日から5月13日までは、ちぎり絵講座を受講した中国の人たちの作品を含む63点を平山郁夫美術館ロビーに展示します。

 私たち虹橋の会は、引き続き和紙ちぎり絵の素晴らしさを海外に紹介すると同時に、日本国内の若い世代にも伝えていきたいと思っています。 (NPO法人虹橋の会理事長)

(2023年4月15日朝刊セレクト掲載)

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