社説 陸自ヘリ事故 何が起きたか情報開示を
23年4月18日
沖縄県宮古島付近で消息を絶った陸上自衛隊UH60JAヘリコプターの胴体部分が、水深106メートルの海底で発見された。搭乗員とみられる5人も近くで見つかった。国民の安全を守るための活動で隊員が命を失う事態となり、胸が痛む。
熊本市に司令部を置く第8師団の坂本雄一師団長をはじめ幹部ら計10人が乗っていた。残る搭乗員の救助が急がれる。サンゴ礁が広がる海底の地形と海流が複雑で捜索は難航している。防衛省と自衛隊には引き続き力を尽くしてもらいたい。
鹿児島、沖縄両県にまたがる南西諸島で政府は防衛体制の強化を進めている。その中での事故で衝撃は大きい。発生から10日以上たつが、何が起こったのか、いまだに判然としないのはなぜなのか。機体の引き揚げなどをできるだけ速やかに進め、原因解明につなげてほしい。
ヘリは6日午後、航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸した。坂本師団長らは3月末に着任したばかりで、島の地形を偵察するのが目的だった。第8師団は、南西諸島の有事に対応する「機動師団」に位置付けられる。トップとして最前線を見ておきたかったのだろう。
複数の幹部を乗せるだけに運行前のチェックに万全を期していたはずだ。墜落した機種は人員輸送や災害救助などに用いられる多用途ヘリで、安全性には定評がある。事故機は3月下旬に「特別点検」を受けたばかりで、経験豊富な操縦士と副操縦士が搭乗していた。当日の天候や視界も良好だった。
消息を絶つ2分前、空港の管制と通常の交信をしていた。その後、何があったのか。手動による緊急事態の連絡や自動の救命信号はなかった。機体の不具合か、操縦ミスか、もしくは想定外のトラブルか。よほど急な異変だったのだろう。
インターネットや交流サイト(SNS)では中国軍の関与を疑う根拠のない言説が飛び交った。中国軍の艦船が事故当日、宮古島周辺を通過したことなどと関連付けた臆測である。防衛省は「関連するような中国軍の動向は確認していない」と、国会答弁や記者会見ですぐに打ち消した。冷静な対応といえる。
それに引き換え、捜索状況などの情報公開は十分とは言い難い。例えば、海底で機体のようなものが見つかった際や、深い海での作業を可能とする「飽和潜水」を中断した際、防衛省は発表に慎重になっていたようだ。搭乗員の家族への配慮かもしれないが、国民の注目を集める重大事故である。より積極的な情報開示が求められよう。
政府は2016年以降、与那国島、奄美大島、宮古島に駐屯地を相次いで開設。先月は石垣島にもできた。昨年12月に改定した安全保障関連3文書に南西諸島の防衛強化を明記。その背景には、台湾侵攻の可能性も指摘される中国の動きがある。
自衛隊の「南西シフト」に住民の理解を得ようとするなら、まずは足元の部隊運用の安全確保に努めるべきだ。自衛隊機の墜落事故は毎年のように起きている。18年には佐賀県神埼市の住宅街に陸自ヘリが墜落し、搭乗員2人が死亡したほか、民家が炎上して女児がけがをする事故も起きた。悲惨な事故が二度と起こらないよう、対策を徹底してもらわねばならない。
(2023年4月18日朝刊掲載)
熊本市に司令部を置く第8師団の坂本雄一師団長をはじめ幹部ら計10人が乗っていた。残る搭乗員の救助が急がれる。サンゴ礁が広がる海底の地形と海流が複雑で捜索は難航している。防衛省と自衛隊には引き続き力を尽くしてもらいたい。
鹿児島、沖縄両県にまたがる南西諸島で政府は防衛体制の強化を進めている。その中での事故で衝撃は大きい。発生から10日以上たつが、何が起こったのか、いまだに判然としないのはなぜなのか。機体の引き揚げなどをできるだけ速やかに進め、原因解明につなげてほしい。
ヘリは6日午後、航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸した。坂本師団長らは3月末に着任したばかりで、島の地形を偵察するのが目的だった。第8師団は、南西諸島の有事に対応する「機動師団」に位置付けられる。トップとして最前線を見ておきたかったのだろう。
複数の幹部を乗せるだけに運行前のチェックに万全を期していたはずだ。墜落した機種は人員輸送や災害救助などに用いられる多用途ヘリで、安全性には定評がある。事故機は3月下旬に「特別点検」を受けたばかりで、経験豊富な操縦士と副操縦士が搭乗していた。当日の天候や視界も良好だった。
消息を絶つ2分前、空港の管制と通常の交信をしていた。その後、何があったのか。手動による緊急事態の連絡や自動の救命信号はなかった。機体の不具合か、操縦ミスか、もしくは想定外のトラブルか。よほど急な異変だったのだろう。
インターネットや交流サイト(SNS)では中国軍の関与を疑う根拠のない言説が飛び交った。中国軍の艦船が事故当日、宮古島周辺を通過したことなどと関連付けた臆測である。防衛省は「関連するような中国軍の動向は確認していない」と、国会答弁や記者会見ですぐに打ち消した。冷静な対応といえる。
それに引き換え、捜索状況などの情報公開は十分とは言い難い。例えば、海底で機体のようなものが見つかった際や、深い海での作業を可能とする「飽和潜水」を中断した際、防衛省は発表に慎重になっていたようだ。搭乗員の家族への配慮かもしれないが、国民の注目を集める重大事故である。より積極的な情報開示が求められよう。
政府は2016年以降、与那国島、奄美大島、宮古島に駐屯地を相次いで開設。先月は石垣島にもできた。昨年12月に改定した安全保障関連3文書に南西諸島の防衛強化を明記。その背景には、台湾侵攻の可能性も指摘される中国の動きがある。
自衛隊の「南西シフト」に住民の理解を得ようとするなら、まずは足元の部隊運用の安全確保に努めるべきだ。自衛隊機の墜落事故は毎年のように起きている。18年には佐賀県神埼市の住宅街に陸自ヘリが墜落し、搭乗員2人が死亡したほか、民家が炎上して女児がけがをする事故も起きた。悲惨な事故が二度と起こらないよう、対策を徹底してもらわねばならない。
(2023年4月18日朝刊掲載)