連載・特集

　 ≪８月６日、広島に原爆が落とされた。当時は段原新町（現南区）の長屋に住んでいた≫
　外で友達と遊ぼうと家の引き戸を開けた瞬間、ピカーッと光ってドーンとものすごい音がしました。気がつくと家が崩れ、おふくろと三つ上の姉が私に覆いかぶさって助けてくれました。その瞬間で覚えているのは、目の前がちょっと赤く感じられたこと。あとで聞いたら、おふくろが飛び散ったガラス片で背中をけがし、着ていた白い服が血で染まって赤く見えたそうです。

　早く逃げなさいと言われ、姉と１００メートルほど先のブドウ畑に駆け込みました。何十人かいたでしょうか。まだ小さかったから微細に覚えているわけではないですが、はっきり覚えていることもあります。絶叫と人肉が焼けただれる臭い。それから近くのどぶ川に飛び込む人たちの姿。苦しかったでしょうね、気がおかしくなるでしょうね。地獄のようでした。あれは７０年たっても忘れることはありません。

　 ≪この時、７歳上の姉の点子（チョムジャ）さんを亡くした≫
　投下から１、２日後、担架で家に運ばれました。勤労奉仕に出て被爆しました。全身焼けただれて誰か分からないほどで、こんな姿になるのかと。ブドウ畑でブドウの実を口に当てたけれど、食べられませんでした。文化の違いなのか、母は亡くなった姉の遺品、髪の毛１本も残さなかった。全部焼き捨てたようです。姉のことは兄貴に遠回しに聞くくらいしかできませんでした。

　私が助かったのは、比治山のおかげだと思っています。山の反対側が今の原爆ドームの方向なんですが、標高約７０メートルのおかげで熱線が直接届かなかったと聞きました。比治山が命の恩人といっても過言ではありません。

　ブドウ畑で４、５日過ごした後、猿猴川に架かる東大橋の下でしばらく暮らしていました。おやじは先に韓国に帰って、すぐに亡くなりました。当時は闇船が広島と韓国を行き来していて、おふくろも戻るつもりだったらしいです。ところが、船が何回目かの航行で下関沖で転覆したらしいと。それを聞いたおふくろが怖くなって、広島に居着くことになったのです。

（２０１５年５月２１日朝刊掲載）