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社説・コラム

社説 広島サミット 外相会合 核廃絶の議論 物足りない

 核兵器廃絶を目指す道筋を、どれだけ明確に示せただろう。

 長野県で開かれていた先進7カ国(G7)外相会合がきのう共同声明を発表して閉幕した。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年が過ぎた。中国は覇権主義的な動きを強めている。国際秩序維持のために、インドなど新興・途上国の支持を取り付けながら、G7が一致して対応する姿勢に異論はない。

 外相会合は来月、広島市で行われる首脳会議(広島サミット)の下準備的な位置づけだろう。被爆地でのサミット開催を考えれば「核兵器のない世界」へ向けて、核不使用の原則や核戦力の透明性向上といったテーマがもっと議論されるべきだった。サミット本番では、G7首脳が核廃絶へ、踏み込んだ議論をしてもらいたい。

 林芳正外相は会合後の会見で「広島と長崎に原爆が投下されてから、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは決して許されない、とのメッセージを力強く世界に発信したい」と強調した。

 ならば核廃絶を共同声明の冒頭で触れず、軍縮・不拡散に関する記述は声明のごく一部に過ぎないのはなぜなのか。これでは埋没感は否めず、物足りなさしか感じない。

 あろうことか、声明には「核兵器は、それが存在する限り、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争および威圧を防止すべきとの理解に基づいている」という記述さえある。

 核抑止の肯定を前提とした議論は断じて受け入れられない。核使用をちらつかせるロシアや、核兵器増強を進めている中国に主張を改めさせることも難しくなるだろう。

 7年前の伊勢志摩サミットの外相会合は広島で開かれた。核保有国の外相も平和記念公園を訪れ、当時のオバマ米大統領の広島訪問につながったことは大きな前進だった。

 今回の広島サミットはその先にある。核廃絶の取り組みをもっと進めるのは当然だ。

 地元選出の岸田文雄首相は昨年8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、行動計画「ヒロシマ・アクション・プログラム」を打ち出した。

 広島サミットはその目標の一つ「各国のリーダーによる被爆地訪問の促進」を実現するものだろう。声明が、同プログラムを「歓迎すべき貢献」と評価したこともうなずける。

 ただ、首相に求めたいのは、核なき世界の実現を目指すとうたいながら、核兵器禁止条約に背を向ける態度を改めることだ。核保有国と非保有国との橋渡し役を強調するだけでは、被爆国としての説得力に欠けると言わざるを得ない。

 核軍縮の動きは停滞している。同プログラムにも掲げている核兵器数の減少傾向の維持、核不拡散の確保など、深化させていくべきテーマは山積みされたままになっている。

 NPT再検討会議の場で、国連のグテレス事務総長が「人類は広島と長崎の恐ろしい炎から得た教訓を忘れつつある」と指摘したのが象徴的だ。

 核兵器は必要悪でなく、絶対悪である。広島サミットを通じて、世界にそれを認識させていくことが日本政府の責務であるはずだ。

(2023年4月19日朝刊掲載)

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