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連載・特集

サミットと暮らし インタビュー <1> 叡啓大 瀬古素子准教授

 広島市で初めてとなる先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、19日で開幕まで1カ月となった。世界のリーダーたちが3日間、膝詰めでする議論は私たちの暮らしにどう結びつくのか。各分野の識者たちにポイントを聞いた。

ジェンダー格差

コロナで拡大 新目標は

  ≪2022年のドイツサミットで、G7など各国の男女格差を表すジェンダー・ギャップのデータが示された。日本は、1日に費やす無報酬のケア労働・家事の時間や労働参加率でG7平均より劣っていた。≫
 広島サミットでもジェンダーで、日本の遅れが指摘されるだろう。「日本は頑張りなさい」と言われておしまいでは意味がない。新たな目標や約束が掲げられるかどうかに注目している。「サミットで『やる』と言いましたよね」と、市民が政府に説明を求めることができるからだ。多額の税金が費やされるサミットでの約束には重みがある。

  ≪ドイツサミットのジェンダー関連では、新型コロナウイルス禍で性暴力やドメスティックバイオレンス(DV)の被害に遭う女性が世界中で増加した点が取り上げられた。≫
 各国で、コロナ禍で失職したのは女性が多く、落ち着いた後に再雇用されるのは男性が多い傾向がある。米国ではこの数年、家庭の経済状況悪化で、女子の進学率が下がっている傾向も見られる。性暴力やDV被害の増加を含めてコロナ禍では男女平等が後退し、不平等が浮き彫りになった。広島サミットで、解決のために何をするのか示してもらいたい。

  ≪格差解消につながる起業支援へは、金融教育や科学・技術・工学・数学を指す「STEM」分野のスキルを女性が身に付ける必要性が言われている。≫
 国連女性機関の21年の報告では、高校卒業までにSTEM分野を専攻する女子は全体の16%だった。女性差別が根強い途上国では、家庭にスマートフォンやパソコンが1台しかない場合、男子が優先して使う現状がある。起業や稼げる職業に就くため、女性がSTEM分野を学ぶ環境を広げるのが大切だ。

  ≪ジェンダーは、さまざまな課題に関わる。≫
 対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の課題もサミットで議論される可能性があり、ジェンダーの視点が入るか注目している。今年、経済誌フォーブスに「チャットGPTは性差別主義者か?」という記事が載って話題になった。AIがジェンダーに配慮していない過去の言説や偏見に基づく見解を広めるリスクを考えないといけない。

 近年、インターセクショナリティー(交差性)の重要性が認識されている。女性を一枚岩でくくらず、人種や性的指向、障害、年齢といった女性の中の多様性を踏まえて差別や不利益を理解するという意味だ。広島サミットでは、交差性を踏まえ、きめ細かい議論をしてほしい。(聞き手は久保友美恵)

せこ・もとこ
 津市出身。米ミネソタ州立大院修了。エイズ・結核・マラリア対策に取り組む国際機関グローバルファンド(本部スイス)や国連の職員、国際協力機構(JICA)専門家を経て2021年度から現職。専門は国際保健・ジェンダー学。

(2023年4月19日朝刊掲載)

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