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社説・コラム

社説 学術会議法改正案 提出見送り 対話重ねよ

 日本学術会議はおとといまで開いた総会で、会員選考の見直しなどを盛り込んだ学術会議法改正案の今国会提出を思いとどまるよう求める政府への勧告を全会一致で決めた。開かれた協議の場の設置も提案している。

 学術会議の意見表明で最も位置づけが重いのが勧告である。独立性を損なう懸念に加え、政府の拙速な進め方に反発は大きい。市民などに向けた声明では「法改正を『日本の学術の終わりの始まり』にしてはならない」と危機感をあらわにした。

 学術界と政治の間に信頼関係が築かれていない状態で法改正を強行すれば、両者の溝は埋め難いものになる。政府は改正案の提出を控え、学術会議と対話を重ねるべきだ。

 民主主義国で学術会議に当たる組織の多くは会員の選考がその組織に委ねられている。日本でも憲法が保障する学問の自由を担保する上で当然だろう。

 ところが改正案では、新会員候補を現会員が選び、首相に推薦する現行方式を変える。第三者による「選考諮問委員会」を新設し、選考に対する意見を学術会議は尊重しなければならないと規定するという。会員以外から推薦された候補の登用も掲げる。

 委員5人の任命は学術会議の会長がするが、その際に政府の総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員、日本学士院院長と協議することが課せられる。

 この政府会議は首相が議長で閣僚6人がメンバー。有識者議員7人のうち3人は経済界出身で、首相が任命する。これでは選考諮問委に政府の意をくむ人物が入る余地がある。

 この内容が明かされたのは、総会初日の17日である。学術会議側が「一方的だ」と反発するのはもっともだ。改正案が掲げる「活動や運営の透明化」「ガバナンス機能の強化」にもつながるまい。

 しかも、説明した内閣府の担当者は、政府案にのっとって透明性を確保できなければ「国の機関にとどまり続けるのは難しい」とけん制したという。まさに政治が介入する仕組みではないか。

 学術会議は先の大戦に科学者が協力したことへの反省に基づき設立された。権力から独立した機関だからこそ、目先の利益や既得権益にとらわれず、中長期的な視点から助言ができる。

 今回の改正案からは、時の政権や産業界にとって耳の痛い助言は必要ないと考えている節さえうかがえる。

 学術会議と政治の対立は2020年、当時の菅義偉首相が新会員候補6人の任命を拒んだことが発端である。その理由はいまだ説明されていない。

 岸田文雄首相も「一連の手続きは終了した」と繰り返すだけだ。任命拒否問題をうやむやにしたまま、組織の在り方に手を突っ込むのは筋違いである。

 政府は学術会議の求めに応じ協議の場を設け、議論を尽くすべきだ。学術会議も会員選考や運営の透明性を自ら担保する取り組みを示せばいい。対立で不利益を被るのは国民だ。

(2023年4月20日朝刊掲載)

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