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連載・特集

サミットと暮らし インタビュー <3> 慶応大 村井純教授(68)

デジタル化

透明性高め平和貢献を

  ≪日本政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)が、世界の専門家の関心を集めている。≫
 デジタル庁をつくり、1万余りの法律を変えた。国際会議などで、人口1億人規模の日本が本気で構造改革していることに驚かれる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界のDXを加速させているが、周回遅れだった日本はトップランナーになったと思う。紙、はんこ、対面を求める行政手続きが変わる。数年で、暮らしに近い領域でデジタルファーストがもっと進む。

 (国が2025年度末を目標とする)地方自治体のシステム標準化などのデジタル基盤の整備は他国もうらやむ。コストを下げ、人は重要な業務に集中する。

  ≪先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、日本が提唱する「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を世界の成長エンジンにする構想が取り上げられている。≫
 DFFTは日本発の概念。健全で透明性のある仕組みで国境を越えてデータを流通し、互いが信用して新たなビジネスや貿易をできる足場にする。プライバシーや各国の規制などの課題はあるが、日本が先行する農業や防災に絞り、具体的な前進を目指すべきだ。

  ≪「チャットGPT」といった対話型人工知能(AI)への賛否など、テクノロジーと社会との調和に関心が高まっている。≫
 AIは、技術の透明性を高め、正しく理解して向き合うのが大切だ。ブラックボックスと捉えられると不安や過信につながる。用いるデータやプロセスに透明性があれば、多様なステークホルダー(利害関係者)が友好的に活用できる。

 これから最も重要なのはエシックス(倫理)だ。テクノロジーは悪用する動きも生んでしまう。日本は、助け合いの文化や国際援助から「善」の価値観を期待される。インターネットは水や食料、医療を支え、命を守る基礎だ。議長国として、その恩恵を誰もが受けられるよう、デジタル空間のインクルージョン(包摂)を主導してほしい。

  ≪広島大教授を務めた教育学者で手記集「原爆の子」を編んだ長田新氏(1887~1961年)は母方の祖父。幼い頃、何度も広島に訪ねた。≫
 風呂に入ると(被爆時に刺さった)ガラスが祖父の体から出てきた。母は入市被爆し、髪の毛が全部抜けるなど苦しんだ。酸素のように不可欠になったインターネットの基礎を世界で共有しながら、いかに平和に貢献する道筋をつくるか。広島サミットで、各国の責任と役割と願いを形にしてもらいたい。(聞き手は山本洋子)

むらい・じゅん
 東京都出身。慶応大大学院工学研究科後期博士課程単位取得退学。慶応大環境情報学部長、同大学院政策・メディア研究科委員長などを歴任し、内閣官房参与も務める。国内初のネットワーク間接続を確立した「日本のインターネットの父」。

(2023年4月21日朝刊掲載)

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