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社説・コラム

社説 広島サミット 気候変動 危機感共有し打開策探れ

 気候変動が世界各地で深刻な災害を引き起こしている。人類を脅かす危機として、平和都市広島で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも重要なテーマとなる。

 だが、先日、札幌市であったG7気候・エネルギー・環境相会合で、日本が率先して立ち向かおうとする姿勢は見えなかった。共同声明は、産業革命前からの気温上昇を1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成へ向け、「迅速かつ具体的な行動を取る」とした。しかし温室効果ガス削減の具体策や数値目標での進展はほとんどなかった。

 サミットでは、気候危機を招いた大きな責任がある先進国として、問題解決へ強いメッセージを発してもらいたい。とりわけ議長国・日本の責任は重い。

 焦点となるのは、昨年のG7サミットで合意した「2035年までの完全または大部分の脱炭素化」からの前進があるかどうかだ。先の閣僚会合で、化石燃料の使用の「段階的廃止を加速する」としたが、年限は示さなかった。電気自動車(EV)など二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車の導入目標の設定も見送った。

 足を引っ張ったのは、日本である。脱炭素化の取り組みで他国に後れを取っている。多くの先進国が石炭火力発電の廃止を決め、再生可能エネルギーの拡大を進める中、日本は30年代以降も維持するという。ハイブリッド車が多く、EVシフトが遅れている国内メーカーへの配慮もあるのだろう。

 今のままでは脱炭素化の抵抗勢力というレッテルを貼られかねない。こうした姿勢はかねて国内外で厳しい視線を浴びてきた。国連気候変動枠組み条約の締約国会議の期間中、温暖化対策に後ろ向きな国へと贈られる「化石賞」を、国際環境団体から毎年のように受けている。

 先進国の足並みがそろわない状況では世界的な危機を乗り越えられない。危機感を共有し、本気で打開策を探るべきだ。

 科学者たちでつくる国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の警告は重い。先月の報告書は、産業革命前から平均気温は既に1・1度上昇しているとした。このままでは今世紀末に最大3・4度の上昇になると予測する。「気候変動は人間の幸福と惑星の健康に対する脅威。住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に閉じている」。この10年の対策が人類や地球に数千年先まで影響すると訴える。

 現に世界では熱波や豪雨、干ばつが相次ぎ、生態系にも深刻な影響が出ている。昨年のパキスタンの大洪水では国土の3分の1が浸水し、多くの犠牲者が出た。海面は100年余りで20センチ上昇し、南太平洋では島が沈む危機に直面する。

 日本列島で頻発するようになった記録的な豪雨や猛暑も、地球温暖化の影響を指摘する声は強い。14年の広島土砂災害や18年の西日本豪雨も気候変動の脅威を実感させた。

 そんな中、広島サミットで温暖化と向き合う意義は大きい。地球の未来を守るという意味で核兵器廃絶の議論と相通じる部分もあるからだ。分岐点だったと語られるような成果を生み出してほしい。被爆地からの平和発信の幅を広げるため、私たち市民ももっと関心を持ちたい。

(2023年4月23日朝刊掲載)

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