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連載・特集

サミットと暮らし インタビュー <5> 「環境・持続社会」研究センター 足立治郎事務局長(55)

気候変動・エネルギー

地域経済守るのも正義

  ≪札幌市で15、16両日に開かれた先進7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合は、2050年の温室効果ガス「実質ゼロ」に向けた取り組みを加速すると再確認した。二酸化炭素(CO₂)以外の温室効果ガスへの言及も強めた。≫
 CO₂削減は気候変動分野で「一丁目一番地」の課題であり、注目すべきなのは当然だ。ただ化石燃料を由来とするCO₂の19年の排出量は、世界でみると温室効果ガス全体の64%だ。メタンやフロンなど、他の温室効果ガスの削減をどうするのか。札幌会合の共同声明ではメタン削減を個別に取り上げるなど、今までより注目度が高い。

 サミットでの各国の合意は今後の政策に反映される。例えばフロンは冷蔵庫の中を冷やす触媒として使われているが、対応強化で各国が合意すれば、ノンフロン冷蔵庫の導入を進める政策などが出てくるのではないか。

  ≪昨年のドイツサミットの共同声明は、気候変動の影響を抑えるため「適応能力を強化する」と盛り込んだ。≫
 これまでのサミットは、温室効果ガスの削減という「緩和策」の進め方には熱心だったが、気候変動による被害を軽減する「適応策」の議論があまりなかった。完全な脱炭素は不可能であり、温暖化対策を強力に推進しても当面は平均気温は上昇する。被害を軽減する取り組みも不可欠だ。防災対策とも関連する。広島サミットではゲリラ豪雨に対する早期警戒システムの構築なども議論してほしい。

  ≪ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、経済や社会は混乱した。脱炭素社会への移行はクリーンエネルギーの導入促進も含めてスムーズに進める必要がある。≫
 瀬戸内地方は製造業が多く、脱炭素に向けた取り組みはハードルが高い。排出企業への課税は不可避だが、あまりに強化したら企業が海外に出て行くだけだろう。脱炭素も正義だが、地域経済を守るのも正義だ。札幌会合の共同声明でも、脱炭素社会への移行に向けて労働者や社会を支える必要性が強調された。

 温室効果ガスの排出を減らすのは当然だ。ただ企業の新しい技術開発や労働者のリスキリング(学び直し)を支援し、雇用や地域経済を守っていくという視点も重要だろう。広島サミットでは金融機関の役割にも触れ、地域での技術開発やリスキリングへの投資が進むよう期待している。(聞き手は加田智之) =おわり

あだち・じろう
 東京都出身。東京大卒。民間企業勤務、「環境・持続社会」研究センター(東京)のスタッフを経て、2003年から現職。島根県立大の非常勤講師も務める。

(2023年4月23日朝刊掲載)

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