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ビキニ被曝60年 仲間の無念 現地で訴え 「死の灰」浴びた大石さん

 太平洋・マーシャル諸島でのビキニ水爆実験から1日で60年。「死の灰」を浴びたマグロ漁船第五福竜丸元乗組員の大石又七さん(80)=東京都=は、運命を変えた「3・1」を現地で迎えた。命ある限り核の恐ろしさを訴えたい―。亡くなった仲間の思いを背負い、体の不自由にあらがい、日本から約4500キロ離れた諸島を訪ねた。 (マジュロ(マーシャル諸島)発 藤村潤平)

 「水平線の向こうで、あんなことが起きているとは夢にも思わなかった」。60年前、米国の水爆実験が行われた時刻と同じ1日午前6時45分、首都マジュロの海辺で、ビキニ環礁がある北西方向に目を凝らした。

 甲板に積もるほど降った放射性降下物「死の灰」は、乗組員23人の体をむしばんだ。既に16人が亡くなった。

 大石さんは肝臓がんを手術。糖尿病や高血圧にも悩まされる。2年前には脳出血で倒れ、つえが欠かせない生活になった。「体の不調を理解されずに死んだ仲間の悔しさを考えると、言わずにおれない」。10年ぶり3度目となる今回の旅も医師の制止を振り切って決行した。

 2月26日夜に現地入りして以降、政府関係者との懇談や学校での講演、地元メディアの取材などに可能な限り応じている。28日には、同じく「死の灰」を浴びた元島民の女性(65)と面会。強烈な記憶、過酷な差別に悩んだ経験を打ち明け合った。2人は「若い世代に語り継がなければ」と意気投合した。

 運命の時刻は60年前と同じく、穏やかな海だった。「あの灰に遭わなければ平和な生活だったかな。魚釣りを今頃してたかな」。大石さんは船を出す漁師たちを眺め、冗談のように、本音のようにつぶやいた。

(2014年3月2日朝刊掲載)

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