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社説・コラム

天風録 『邦人退避作戦』

 覚えている人もいるだろう。広島で1985年に開かれたワールドカップマラソン。アフリカの小国ジブチの選手が、世界歴代2位の速さで駆け抜けた▲優勝候補の宗兄弟を引き離し、中山竹通選手との終盤のデッドヒートも制してゴールに。その写真と共に「アーメド(ジブチ)初の王者」の見出しが本紙の1面を飾った。それから38年、あの国が再び耳目を集めている。今度は、戦火のスーダンからの邦人退避作戦の拠点として▲スーダンでは、10日前に武力衝突が勃発した。巻き添えになる恐れが住民にのしかかる。そんな首都から、自衛隊機の待つ北東部の空港に40人を超す邦人が逃れてきた。陸路で丸1日以上かかったというから道中どれほど不安だったか▲ジブチに退避した邦人の中には、現地で医療支援を続けるNPO法人のスタッフの姿もあった。手助けしてくれた人たちに感謝する一方、逃れるすべのない現地スタッフに思いをはせる▲民政移管を進めていたのに、振り出しに戻るのだろうか。スーダンに限らない。軍事政権下の人々には、早く民主主義というゴールにたどり着いてもらいたい。今回のような退避作戦を減らすことにもつながるはずだ。

(2023年4月26日朝刊掲載)

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