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社説・コラム

社説 スーダン邦人退避 事後検証尽くし 公表を

 多くの在留邦人が無事に退避できてほっとした。

 岸田文雄首相は、戦闘が続くアフリカ北東部スーダンへ自衛隊機を派遣し、在留邦人45人を退避させたと明らかにした。別に8人が出国し、首都ハルツームで退避を希望していた全邦人の国外退去が完了した。

 スーダンでは、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の衝突が15日に始まり、国際機関の職員たちが巻き添えになり亡くなっている。日本政府が大使館関係者や自国民の保護に努めることは当然だ。

 岸田首相が「安全に関わる」として事前説明を控えたことはやむを得まい。ただ現地での戦闘は先が見えず、事情があって現地に残った邦人もいる。退避で一件落着ではなく、スーダンの今後にも政府は目配りしていく必要がある。

 2021年8月のアフガニスタン情勢悪化の際には自衛隊機による邦人退避が遅れた。それを教訓に政府は昨年4月、自衛隊法を改正。派遣の要件は「安全に実施できる時」から「危険回避の対策が講じられる時」になった。今回はそれが初めて適用されたケースである。

 現地では3日間の停戦合意が日本時間24日午後に期限切れを迎え、いつ戦闘が再開されてもおかしくなかった。派遣には外相と防衛相が協議して危険回避策を講じることが課せられているとはいえ、期限切れ後の派遣には危険がなかったのか。

 23日投開票の衆参5補選への影響を恐れて派遣を後回しにしたという指摘もある。政治事情で対応が遅れたとすれば本末転倒だ。政府の判断が適切だったか、しっかりした検証が要る。

 ジブチが近い幸運もあった。ジブチには海賊対策で11年に設けられた自衛隊初の海外拠点がある。そこへ自衛隊機を派遣することには支障が少ない上、米軍司令部基地があり、フランス軍も駐留しているからだ。

 米国は政府関係者の退避を既に完了させている。仏軍はハルツーム近郊の飛行場を確保し、邦人の退避にも協力してくれた。仏軍には感謝するが、米仏両国と事前の情報共有が十分あれば、もっと別の手段も選択できたのかもしれない。

 自衛隊機が退避者45人を乗せたのは北東部ポートスーダンである。首都から700キロの陸路を移動できたからこそ実現できた。もし途中で足止めされていればどうなっていただろうか。

 自国民を救出するため、ハルツーム近郊にさっさと自衛隊機を派遣すべきだという強硬な意見もあろう。しかし、よく考えてもらいたい。日本国内の自国民保護を理由にロシアや北朝鮮などが軍用機を日本に飛来させることも正当化されかねない。

 自衛隊の海外派遣に慎重姿勢が求められるのは先の戦争の反省からだけではない。内戦状態の地域に通告もなしに、自衛隊機を乗り入れれば撃墜される可能性が高まり、隊員の生命も危険にさらされる。退避支援はあらゆる可能性を精査した上で慎重な運用が欠かせない。

 退避活動のため約370人で編成された統合任務部隊の運用状況や、隊員の装備品などについても詳細な事後説明と検証徹底が必要だろう。併せて、多くの国民が逃げ場を失い、苦境に陥っているスーダンへの人道支援にも取り組むべきだ。

(2023年4月26日朝刊掲載)

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