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社説・コラム

社説 「黒い雨」きょう2次提訴 救済の流れ 後退させるな

 広島への原爆投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」の被害者救済を巡り、新たな訴訟がきょう、広島地裁に起こされる。原告は、国の新しい認定基準の下で被爆者健康手帳を申請し、却下されるなどした広島県内の23人。県や広島市に却下処分の取り消しなどを求める。

 黒い雨を巡る訴訟では、原告全員を被爆者と認める2021年の広島高裁判決が確定している。一審の広島地裁判決では必要とされた、放射線の影響が色濃いがんや白内障など、特定11疾病の有無を不問とする画期的な判断だった。

 国は控訴を断念し、高裁判決を受け入れた。にもかかわらず昨年4月に運用を始めた新基準は11疾病を要件とした。従来の援護制度との整合性を取るためというが、疑問は拭えない。

 国は従来、黒い雨の援護対象区域として、爆心地から北西に延びる楕円(だえん)形のエリアを指定していた。その中で黒い雨に遭った人が一定の病気になれば、被爆者健康手帳を交付していた。

 黒い雨に遭っていても、国指定の区域外だった人は何ら救済されなかった。このため、被爆者だと認めるよう求める集団訴訟が広島地裁に起こされ、全面救済の高裁判決につながった。

 市と県は新基準を巡る国との事前調整で、疾病の有無にかかわらず、雨に遭った事実を基に判断するよう求めていた。当然である。ところが、国は強硬姿勢を崩さず、疾病要件を撤回しなかった。全面救済に道を開いた高裁判決からの大幅後退だ。

 もちろん新しい基準ができたこと自体には意味がある。国の試算では、1万を超す人が新たに被爆者と認定されるという。閉ざされていた救済の門戸が開かれたことは間違いあるまい。

 ただ、却下される人も少なくない。県と市によると、高裁判決後、3月末までに申請のあった計4696人のうち、184人に上っている。今回提訴する原告の中にも、疾病要件で却下された人がいるという。

 高裁が、疾病要件を不問にしたのは被爆者援護法に基づいている。被爆者の認定要件のうち「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」について、放射能により健康被害が生ずるのを否定できない者だったことを立証すれば足りると解釈。その上で、黒い雨に遭った人は被爆者の認定要件に該当すると判断した。

 今回の訴訟では、国が新基準に押し込んだ疾病要件が妥当かどうかが、争点になるはずだ。

 もう一つ、黒い雨はどの範囲で降ったかも争点になるだろう。これまでの調査から三つの降雨区域が示されている。それらの外で黒い雨に遭ったとして申請し、却下された人もいて、一部は原告に加わっている。

 高裁判決では「範囲が異なる三つの降雨域は黒い雨が降った蓋然(がいぜん)性が高いということができる」としつつ、「範囲外だからといって黒い雨が降らなかったとするのは相当ではない」と述べている。司法の場でしっかり議論することが求められる。

 被爆者が悲願としていた援護法は、原爆投下から半世紀ほどたってから成立した。その後、在外被爆者や原爆症認定を巡る壁を打ち破り、残っていたのが黒い雨の問題と言えよう。できる限り幅広い救済を実現させてきた流れを今後も強めたい。

(2023年4月28日朝刊掲載)

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