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社説・コラム

天風録 『ピュリツァー賞』

 争いの場で臨場感ある映像を撮るのは危険と隣り合わせだ。ベトナム戦争の写真で米ピュリツァー賞に輝いた戦場カメラマン沢田教一さんも再三危うい目に遭った。カンボジア取材中の1970年、銃弾を受け、ついに命を落とす▲沢田さんと同様、この人もカメラを襲撃者に奪われた。ミャンマーで反政府デモを取材中の16年前、治安部隊に撃たれて死亡したジャーナリスト長井健司さん。見つけたという現地の独立系放送局が先週、妹に渡した▲長井さんは倒れた後も、このカメラを離さなかった。中に残された映像から当時の様子が浮かぶ。現場報告する自身の姿に加え、政府への抗議や国軍の動きが捉えられていた▲ミャンマーの状況は長井さんの頃より悪化している。選挙での敗北を受け入れずにクーデターを起こし、軍事政権が息を吹き返してしまった。民主主義を求める市民たちに容赦なく牙をむき、空爆まで強行する始末だ▲軍政の支配下企業と日本企業は今も連携しているという。軍の残虐行為に加担するようなものだ。横暴な軍政は許さないと訴えることも、G7広島サミットの役割だろう。志半ばで倒れた長井さんの思いに応えることになるはずだ。

(2023年5月1日朝刊掲載)

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