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原爆ドームそばで世界つなぐ試み 途上国でバッグ生産「マザーハウス」 次世代に「思いのバトン」

 原爆ドームの見える場所に店を出したかった―。ファッションブランド「マザーハウス」の副社長山崎大祐(だいすけ)さん(42)は語る。旧広島市民球場跡地(中区)の商業施設「シミントひろしま」に3月末、中四国初のショップをオープン。試みるのは、バッグやウエアなど途上国でのものづくりを通して「世界をつなぐ」こと。広島では子どもたちも巻き込み、未来志向の発信を模索する。

 アジアの最貧国だったバングラデシュで起業して17年、広島のショップは国内外45カ所目となる。瀬戸内海や島々をモチーフにした店内に並ぶのは、ネパール、インドネシア、スリランカ、インドなど六つの国で作ったバッグやウエア、ジュエリーだ。

 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとする同社にとって、「広島は特別な街」と山崎さんは語る。「原爆ドームの前に立つと、時間が止まったように感じる。原点に立ち返って、今の時代に何をすべきか、考えさせてくれるんです」

 生産拠点となる途上国は貧困と向き合い、内戦やクーデター、テロにも直面する。経済格差や宗教による「分断」をリアルに感じながら、一緒に何かをつくるという営み、仕事を通じて「融和」を生み出したいと考えてきたという。「不幸なことで社会を変えるのは難しい。楽しい、ポジティブなことから社会がつくれたら」と話す。

 「過去と向き合うことが避けて通れない街」と受け止めつつ、広島のショップのコンセプトはあえて「未来志向」。これからを担う若い世代にオープニングに関わってもらおうと、安田女子高(中区)の生徒11人に店を紹介する「オープニングペーパー」をつくってもらった。

 生徒たちは授業でセッションを重ね、バングラデシュの工場で働く人たちとオンラインで交流。B3判にまとめたのは「広島と世界をつなぐ思いのバトンリレー」。マザーハウスの国内外のスタッフや店づくりに携わった広島の建築家たちのメッセージを盛り込んだ。安田女子高2年の高杉咲良さん(16)はバングラデシュの工場長と出会い「笑顔とものづくりへの姿勢が魅力的。途上国に描いていた貧困という漠然としたイメージが変わった」と話す。

 山崎さんは「子どもたちと途上国をつなぐ授業に、今後も力を入れたい。広島の街で何がやれるのか、楽しみです」。オープニングペーパーは店で見ることができる。(編集委員・平井敦子)

(2023年5月1日朝刊掲載)

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