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連載・特集

9条の現在地 <上> 衆院憲法審

 憲法9条を巡る議論が与野党で活発になっている。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた安全保障環境への関心の高まりが背景にあり、国会の憲法審査会で各党が主張を繰り広げている。直近の議論を中心に、憲法の三大原則の一つである平和主義を規定した9条の現在地を見詰めた。(山本庸平)

改憲 各党間に温度差

自衛隊明記巡り議論

■自民 安保状況触れ訴え

■立民 「合憲」必要性否定

 今国会で初めて衆院憲法審があった3月2日。自民党の新藤義孝氏からの「私の考えを述べる」との発言で始まった。7分間で、9条への自衛隊明記や緊急事態時の国会議員任期延長をテーマに進める意向を説明し、憲法審の方向を事実上定めた。以降は毎週木曜に開かれ、9条も毎回のように意見が交わされてきた。

維新も文案提示

 自民の改憲案は9条1項、2項を維持したまま「9条の2」を新設し、自衛隊を位置付ける。新藤氏はこの2カ月間の憲法審でウクライナ侵攻や中国の軍備増強に触れ、国の最大の責務は国民を守ることだと強調。「憲法は最も根幹に当たる規定が欠落している。自衛隊明記は、あるべき国の形を整えることにつながる」と訴えた。

 日本維新の会も同様の9条改正のイメージ文を既に提示。三木圭恵氏は「自衛隊の違憲論が排除されるのであれば、大きな意義を持つ」と説いた。

公明は賛成せず

 公明党や国民民主党は憲法への自衛隊明記は必要とするものの、微妙に立場が違う。公明は別の条文に書き加える案を提唱。北側一雄氏は戦力不保持をうたう9条2項を巡り、自民案に「賛成できない」とした。

 国民民主党の玉木雄一郎氏は自民や維新の案について「自衛隊の組織の違憲論は消えても、自衛権の行使の違憲論は消えない」と主張。9条2項の削除も一案と述べた。

 立憲民主党と共産党は距離を置く。立民の中川正春氏は「自衛隊は合憲で、役割は国民に十分理解されている」と、改憲の必要性を否定。別の立民議員も「国民不在の議論に違和感を持つ」と政党間の議論だけが進む現状に懸念を示した。

 共産の赤嶺政賢氏は「9条を断固として守り抜くという立場に変わりがない」と、ぶれない。

 各党間に温度差がある中、一致点を探る動きも出てきた。今国会9回目となる直近の4月27日、新藤氏は1枚の紙を配った。これまでの論点を4項目に整理した資料だ。連休明けも続く議論を加速させたいとの狙いがあるとみられる。

 3日に施行76年を迎える憲法。岸田文雄首相は4月25日の党憲法改正実現本部の会合で、憲法審の議論を「大いに歓迎する」と喜んだ。かつては9条維持の姿勢を示していたが、2021年9月の自民党総裁選では任期中の改憲実現を掲げて勝利。この日も「改正への思いは、いささかも変化していない」と述べた。

(2023年5月1日朝刊掲載)

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