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連載・特集

被爆地の視座 サミットを前に <5> 世界の核被害

廃絶目指し連帯の動き

保有国は実態の直視を

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控えた広島で、世界の核被害地間の連帯を目指す動きが相次いでいる。「核実験は長期にわたる苦しみを被害者にもたらす」。中部太平洋マーシャル諸島の政府機関で核問題の教育普及を担当するエビリン・レレボウさん(42)は4月30日、広島市での講演で訴えた。

 マーシャル諸島では1946~58年、米国が67回もの核実験をした。「死の灰」(放射性降下物)が降り注ぎ、病に苦しんだり古里を追われたりした住民がいた。米国は核実験被害を4地域に限って認め、補償として1億5千万ドルを拠出。医療給付や環境修復に使われたが枯渇し、今なお被害は続く。

 レレボウさんの母親は8歳だった54年3月1日、ビキニ環礁での水爆実験「ブラボー」に遭い、甲状腺の病気や7回の流産を経験したという。レレボウさんは講演で、母親の残した「健康や環境を完全に回復させることはできない。だが、同じような恐怖を再び経験する可能性は低くできる」との言葉を紹介。核兵器廃絶を求めた。

条約は支援明記

 世界各地で核実験場となったのは、旧植民地や先住民が暮らす地域が目立つ。フランスはアルジェリアや仏領ポリネシア、英国はオーストラリア…。しかし、核兵器保有国の政府は実験記録の開示を拒否するなどして被害の全容は解明されないまま。補償も十分なされてこなかった。

 その長期にわたる苦しみを受け、2017年の核兵器禁止条約の制定交渉会議には、核実験被害地の政府代表や先住民が参加し、被害者援助の必要性を訴えた。21年に発効した条約には「差別することなく」核被害者を支援するよう盛り込まれている。

 その条約を推進するカザフスタンからも先月下旬、カリプベク・クユコフさん(54)が広島を訪れた。旧ソ連最大のセミパラチンスク核実験場から約100キロ離れた村出身で、生まれつき両腕がない。「カザフスタンと日本は共通の悲劇が起き、互いの気持ちがよく分かる。共に核兵器反対への運動を続けなければならない。次代のためにも、核兵器のない世界をつくるべきだ」と呼びかける。

日本の若者呼応

 呼応するように、日本の若者にも連帯を進める動きはある。シンガー・ソングライターの瀬戸麻由さん(31)=呉市=と、早稲田大3年の高垣慶太さん(20)=広島市安佐南区出身=は昨年10月から月1回のペースで、世界の核被害に詳しい識者や反核活動家たちを招き、オンライン学習会を開いている。

 2人は昨年6月に禁止条約の第1回締約国会議に合わせオーストリア・ウィーンを訪問。核被害地から集った被害者や若者と出会ったのが、学習会のきっかけとなった。「核被害をなくすためには視野を広げ、グローバルヒバクシャとつながる必要がある」と瀬戸さんは言う。

 米国の千回超を筆頭に、核保有国が世界各地で繰り返した核実験は2千回以上に上る。広島サミットにはG7の米英仏3カ国に加え、インドも招かれ、核兵器を持つ4カ国の首脳が集うことになる。各地の核被害の実態を真正面から受け止め、廃絶への一歩を踏み出すか。世界のヒバクシャが見ている。(小林可奈) =おわり

(2023年5月6日朝刊掲載)

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