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連載・特集

被爆地の視座 サミットを前に <3> 核兵器禁止条約

市民レベル 広がる支持

新興・途上国 批准増の鍵

 広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、まっすぐな力強い声が会場に響いた。「G7広島サミットに参加する首脳、政府代表の皆さん。核兵器禁止条約こそが、核兵器を廃絶するための最も効果的な道筋です」。4月27日、東広島市の広島大であったユースサミットに集い、「核兵器のない世界」を巡り意見を交わしてきた世界19カ国の若者たちが声明をまとめ、読み上げた。

 核兵器を全面的に違法化した初の国際条約として、2017年に国連の交渉会議で採択された禁止条約。これまでに68カ国・地域が批准した。ユースサミットを主催した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の政策・研究コーディネーター、アリシア・サンダースザクレさん(27)は「禁止条約は核兵器反対の規範を強固にするために重要な役割を果たしている」と強調する。

 約190カ国・地域が加盟し、核軍縮の道筋を議論する核拡散防止条約(NPT)再検討会議は15年、22年に続けて決裂。23年2月には米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止をロシアが発表した。核軍縮に不透明感が漂う中、禁止条約制定は数少ない近年の成果といえる。

G7の若者参加

 核兵器保有国や米国の「核の傘」の下にある国は1カ国も批准していないが、21年に発効以来、徐々に無視できなくなっている。22年のNPT再検討会議の最終文書案には、批准国との折衝を経て発効前後の事実関係が記された。ユースサミットには保有国の米英仏を含むG7全てから若者が参加。ICANが旗を振り、市民レベルでは支持する声が広がっている。

 ただ、国連での採択時には122カ国・地域が賛成した。批准したのはその半数余りに過ぎない。大阪大の黒沢満名誉教授(軍縮国際法)は「効力をもっと高めるためには、批准国の増加が大事だ」と指摘する。

 鍵を握りそうなのが「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国だ。禁止条約を支持している国が多い。G7に中ロやグローバルサウスの国々を加えた20カ国・地域(G20)は、昨年11月の首脳宣言で「核兵器の使用や使用の脅しは許されない」と踏み込んだ。

矛盾はらむ関係

 その宣言に名を連ねた岸田文雄首相は広島サミットにグローバルサウスの代表国を招く。1月の施政方針演説では、外交・安全保障に関し「世界が直面する課題に国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウスに対する関与を強化する」と唱えた。

 一方、日本は禁止条約に加わらない理由に保有国の未批准を挙げる。昨年6月にオーストリア・ウィーンであった第1回締約国会議にはオブザーバー参加さえしなかった。推進するグローバルサウスの国々との関係で新たな矛盾をはらむ。広島サミットの招待国8カ国のうちクック諸島、コモロ、ベトナムは条約を批准、インドネシアとブラジルは署名している。

 締約国会議で現地入りした日本被団協の家島昌志代表理事(80)=東京=は「被爆国の日本が先頭を切って禁止条約に参加すべきなのに、情けない」と嘆く。3歳の時に広島市牛田町(現東区)で被爆した。被爆地選出の首相が議長として開く広島サミットを機に「日本も方向転換を」と訴えている。(小林可奈)

(2023年5月4日朝刊掲載)

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