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社説・コラム

天風録 『韓国人原爆犠牲者の慰霊碑』

 いつもは勤務先まで随行するお付き武官が、その日は体調が悪かった。1人で旧日本軍の司令部に向かっている時、原爆の閃光(せんこう)にさらされる。軍の教育参謀を務めていた、朝鮮王族の李鍝(イウ)公である▲広島市の本川右岸で倒れているのが見つかり、似島に搬送されたが、翌日には事切れる。四半世紀たって、川岸に韓国人原爆犠牲者の慰霊碑が建てられた。助けられた辺りとはいえ、平和記念公園の向こう岸だったため、差別だとの誤解が生じる。公園内に移されることになった▲その慰霊碑を韓国の大統領と日本の首相が訪れ、一緒に祈りをささげるという。来週のG7広島サミットに合わせて、両国の絆をアピールしたいようだ。きのこ雲の下で起きた悲劇に、国籍の区別はない▲日本政府の被爆者援護にも国境があってはならない。ところが、北朝鮮にいる人には届かぬまま。慰霊碑を移設する際、南北統一碑とする案があったが、文言などの調整がつかなかった▲南北分断は今も解消されず、あろうことか、北朝鮮は軍備増強を強硬に推し進めている。横暴を許さぬため、まずは韓国首脳にも、核兵器がいかに非人道的か、広島で理解をさらに深めてもらわなければ。

(2023年5月9日朝刊掲載)

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