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社説・コラム

社説 日韓首脳会談 関係改善 確かなものに

 冷え切っていた関係の改善に向けた歩みを確かなものにしていかなければならない。

 岸田文雄首相が韓国を訪れ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。核・ミサイル技術を高度化させる北朝鮮への対応で緊密に連携することや、経済安全保障面の関係強化を確認した。

 太平洋戦争中に動員された元徴用工への賠償問題の解決策決定を受けて尹氏が来日したのが3月中旬。それから2カ月弱での訪韓で、両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」が12年ぶりに再開した。対話を重ね、揺るぎない隣国関係を築くことで、両国間の懸案解決と北東アジアの平和と安定につなげてもらいたい。

 シャトル外交は2004年に小泉純一郎首相と盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が年2回程度の相互訪問を始めたのが発端だ。小泉氏の靖国神社参拝など時々の事情で中断と再開を繰り返し、11年の野田佳彦首相を最後に途絶えていた。

 当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が島根県の竹島(韓国名・独島(トクト))に上陸したのが、その後の関係悪化のきっかけだ。17年以降の文在寅(ムン・ジェイン)前政権下では、元徴用工や元慰安婦を巡る歴史問題のほか、韓国海軍艦船による自衛隊機への火器管制レーダー照射、韓国に対する半導体関連品目の輸出規制など、安全保障や経済分野にまで亀裂は広がった。

 関係修復に強い意欲を示す尹氏が元徴用工問題を巡り、韓国の財団に賠償を肩代わりさせる解決策を打ち出し、流れが変わった。実際に3月の会談以降、雪解けムードが続いている。

 外務、防衛当局による「安全保障対話」を約5年ぶりに開き、北朝鮮への対処で協力強化を確認した。約7年ぶりに開かれた財務相会談では、経済・金融分野で意見交換する「財務対話」の再開で合意した。両国の輸出規制の強化措置も互いに解除を決定。経済や文化、自治体の交流も早期に回復させたい。

 関係改善の背景に、北朝鮮の核・ミサイル開発加速に加え、覇権主義的な行動を強める中国の脅威がある。米国の意向もあるだろう。

 ただ元徴用工問題の解決策には、韓国国内で日本側に譲歩し過ぎだとの反発が根強い。岸田氏は今回の首脳会談で、過去の植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言に触れ、政府の立場は揺るがないと強調。その上で「大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む」と自身の思いを述べた。一定に踏み込んではいるが、「誠意ある呼応」に期待する韓国世論の評価は分かれよう。

 あすで発足1年となる尹政権の支持率は、世論調査会社「韓国ギャラップ」のデータで33%にとどまる。保守系と革新系の政権交代で、日韓間の合意を何度もほごにされた経緯もある。国民の理解に支えられた関係強化を進める必要がある。

 岸田氏は来週の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に尹氏を招待している。その際、平和記念公園の韓国人原爆犠牲者慰霊碑をそろって訪れると約束したという。評価したい。

 歴史認識問題を含む懸案の解決には相互に歩み寄っていく姿勢が不可欠だ。尹氏の対日姿勢に頼るのではなく、シャトル外交を通じた日本側からの積極的なアプローチも求められる。

(2023年5月9日朝刊掲載)

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