サミットを聞く 国内地方開催地から <4> 広島サミット(2023年) 湯崎英彦 広島県知事
23年5月10日
平和のメッセージ 世界へ
―被爆地の広島である先進7カ国首脳会議(G7サミット)に、どのような期待をしていますか。
ロシアがウクライナに侵攻し、台湾を巡る米中の緊張も高まっている。ロシアによる核兵器使用の脅しもある中で、平和の回復とその維持が大きなテーマになる。サミットが広島で開かれることは非常に重要で、議論のテーマと開催場所の持つメッセージが一致しているのはかつてないこと。G7の首脳が発する平和のメッセージが相乗効果を生み、世界にインパクトを与えることを期待したい。
核被害 現実示す
―原爆資料館(広島市中区)を各国首脳が視察し、被爆者と対話するよう政府に要望しています。
原爆資料館の展示や被爆者の証言で核兵器が使用された時に現実として何が起きるかを示すことができる。頭の中の知識ではなく、意味を心で感じられる。それを踏まえて議論してもらうことが重要だ。
―サミットに絡め、広島の魅力発信をどう進めますか。
各国のメディア向けのツアーを既に始めた。サミット会期中はメディアセンターで広島の食べ物や飲み物をアピールし、伝統文化や産品、自然環境も含めて紹介できるようにしたい。
―2016年に三重県であった伊勢志摩サミットでは、県内への直接的な経済効果だけで483億円あったとされています。広島サミットの経済効果をどう見積もっていますか。
伊勢志摩サミット並みのものはあると思っているが、終わってみないと分からない。波及効果はより大きくなることを期待している。宮島(廿日市市)の3月の観光客数は過去の同月比で最多になった。サミットの事前効果が既に出ている可能性もある。
安全確保 理解を
―広島県や県警はサミット会期と前後を含めた5日間、市中心部などの交通総量を半減する目標を掲げています。これに伴って学校の休校や企業の休業が相次いでいます。
これだけの要人がそろう中、セキュリティー確保のために不便が生じるのは避けようがない。特に交通は機能を維持するために全体量を減らす必要がある。理解をいただく努力はしなければいけない。
―県としての費用負担も大きいものがあります。
県の関連予算は累計114億円になる。うち国の補助は36億円。道路補修や医療体制の整備などインフラ整備だけで80億円かかっており、思ったより負担が大きい。一方で経済効果は直接効果だけではない。大きな会議の実績は今後の会議の誘致にもつながる。長期的に見て十分なリターンを得られると思う。
―県費の支出を伴う以上、県民の理解が何より大切になります。
直接影響を受ける主会場周辺の住民からは幸い基本的な理解をいただいている。企業の自主的なPRや応援の取り組みも1900件に達した。サミット後を含めて子どもの教育面やビジネス面など間接的にプラスになることは多い。そういった点も含めて理解を得られるよう努めたい。(永山啓一)
=おわり
広島サミット
広島市南区元宇品町のホテルを主会場とし19~21日に開かれる。日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの7カ国と欧州連合(EU)の首脳が参加する。インド、韓国、ブラジルなど8カ国も拡大会合に招待されている。
議題には、核軍縮をはじめ、ウクライナ情勢やエネルギー・食料の安定供給、気候変動が見込まれる。人工知能(AI)の適切な利用なども議論される見通しだ。また、各国首脳が原爆資料館を見学し、被爆者と面会する方向で調整。世界遺産の厳島神社がある宮島訪問も想定されている。
広島を地盤にする岸田文雄首相が昨年5月、開催を表明。ロシアがウクライナへ軍事侵攻し、核兵器の使用を示唆する発言もする中、「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない」と説明した。
広島県や広島市は、経済、交通、医療など各分野の関係団体と官民組織「広島サミット県民会議」を設立。歓迎機運の醸成のほか、平和への思いの発信、地元PRなどの取り組みを進めている。
(2023年5月10日朝刊掲載)