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社説・コラム

[歩く 聞く 考える] ポストコロナの外国人観光客  中国地方の周遊 売り込もう 山陰インバウンド機構代表理事 福井善朗さん

 新型コロナウイルスの警戒体制が緩められ、地方でも再び訪日外国人客(インバウンド)が増えてきた。地域活性化につなげるため、山陰インバウンド機構(米子市)代表理事の福井善朗さん(65)は、中国地方一体で売り込む戦略が必要と言う。スマートフォンを使うデジタル周遊パスポートの開発などの仕掛けに込めた考えを聞いた。(論説委員・高橋清子、写真も)

  ―機構は7年前の設立時から中国地方一体での売り込みに力を入れています。なぜですか。
 海外で営業し、山陰だけの勝負は難しいと圧倒的に思わされました。小さ過ぎる。旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で、行ってみたい観光地ランキングの上位に西日本が多い点に着目しました。京都の伏見稲荷大社や奈良の大仏、広島の平和記念公園や宮島です。ここの客を山陰にどうやって連れてくるかを考えました。分析すると関西空港から入り、大阪を宿泊の拠点に動いています。つまり広島に来ても日帰りです。

  ―広島は宿泊が伸びないのが課題です。競争相手ではなく、手を組もうという発想ですね。
 コロナ前ですが、JR広島駅にある日本政府観光局(JNTO)認定の外国人観光案内所で実験をしました。平和記念公園や宮島以外を案内してみたら、6割が行動を変えたのです。山陰を紹介すると、行ってみようかと。広島の観光関係者に怒られるかなと思いましたが、逆に感謝されました。広島での宿泊が増えたそうです。

  ―観光案内所の役割は、想像以上に大きいですね。
 外国人は日本に面白いものはないかと思って来ています。地元の案内だけしてもニーズに合いません。タイのバンコクの案内所はアジアを案内し、富裕層も多いバックパッカーが情報を取りにやってきます。

  ―周遊や情報の拠点を広島に変えられれば、皆潤うと。手段がデジタル周遊パスですね。
 海外では物の見事にデジタル化、もはや「スマホ化」しています。中国地方や関西の観光情報を一体的に得られるようにした上で、三つの機能を付けました。フリーパスは観光施設を定額で回れる機能です。チケットは交通手段を示し、キャッシュレスで買えます。クーポンは割引券で、土産店や飲食店で使えます。コンテンツをたどれば結果として周遊してもらえます。

  ―利用は増えていますか。
 昨年夏に始めたので、まだまだです。地域の商いにつなげてもらうためでもあり、広島の事業者にも参加を呼びかけています。重要なのはデータを「見える化」して共有することです。動きをつかめますから。

  ―ビッグデータを得られれば今までにない宝となります。
 観光客のリアルなデータは得られないものです。コロナ前は海外の旅行会社が客を送ってくるし、有名な観光施設を見れば動向はつかめました。ただコロナ後は個人旅行が増えたのに、それを取り込む仕組みがまだないわけです。デジタルは戦略に生かしてこそ意味があります。

  ―周遊を促す他の策は。
 2025年大阪・関西万博はチャンスです。中国地方を巡るバスツアーを開発します。岡山から島根に行く1泊2日のコース、山口、広島、鳥取の2泊3日コースも。万博のテーマはSDGs(持続可能な開発目標)ですから、環境や伝統継承の現場に行きます。中山間地域を巡りたくても、行き方を考えると気が遠くなります。究極でベタな観光手段です。

  ―農村の古民家への宿泊体験なども喜ばれそうですね。
 開発には外国人ジャーナリストの助言を得ています。彼女たちが「いいよね」と言うものほど行きづらい場所にあります。隠岐、石見神楽、民芸とかね。地方に光を当てて日本をアピールする戦略を分かっていて、理解も深いなと感心します。

  ―観光を地域振興につなげたいとの考えがぶれませんね。
 「観光をやる人は地域に思いをはせるセンシティブ(繊細)な人でないと駄目。合意形成に尽くす人がヒーロー(英雄)」。シンガポールの旅行会社の初代会長だった西村紘一さんに聞いた言葉が心に刺さっています。北海道のために訪日客のチャーター機を飛ばした先駆者です。

■取材を終えて
 地方にとってインバウンドの経済効果は大きい。福井さんはむしろ観光以外の事業者を巻き込めば可能性が広がるとみる。大きな連携を考えたい。

 ふくい・よしろう
 長崎市出身。同志社大商学部卒。1980年に近畿日本ツーリスト入社。国内旅行部、クラブツーリズムで地域活性事業に取り組み、地域振興部長。2007年発足の観光開発会社ティー・ゲート取締役を兼務。退社後の13年、公募で神奈川県観光担当課長に転じる。16年から現職。観光庁観光地域づくり人材育成ガイドライン検討会委員などを歴任。

(2023年5月10日朝刊掲載)

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