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社説・コラム

社説 広島サミット 議長国の役割  市民社会にもっと顔向けよ

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で議長国の日本は、共同声明を世界に発信する立場にある。ただ残念なことに、「こんな調子で大丈夫なのか」といった声も、国内外の市民グループから聞こえてくる。

 札幌市で先月開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合でも、温暖化対策を巡る欧米6カ国との違いが浮き彫りになった。石炭火力発電の、年限を示した早期全廃について、日本だけ受け入れなかった。

 気候変動をはじめ、人類共通の課題にとって、「地球益」の視点は欠かせない。世界をリードすべき立場にもかかわらず、国益にしがみつく姿勢は市民社会にどう映っただろう。

 違いは、人権の面でも際立っている。日本を除くG7の6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、LGBTなど性的少数者の人権を守る法の整備を促す非公式の書簡を岸田文雄首相宛てに寄せたという。議長国の在り方を問う一石でもあるだろう。6カ国とEUは、同性婚か準ずるパートナー制度を法的に認め、性的少数者への差別も法制度で禁じている。

 議長国でありながら、首脳や閣僚がウクライナの首都キーウを訪問していない―。そんな内外の懸念を電撃訪問ではね返した岸田氏が、その勇断や行動力をなぜ、環境や人権の問題では発揮しないのだろう。

 市民社会との間合いの取り方に差があるのではないか。

 G7では2018年にカナダで開催した頃から、政策提言をもらう公式グループとして「W7」や「C7」などを位置付けてきた。Wは女性、Cは市民を意味する英語の頭文字であり、市民社会からの声に向き合う意思表示と受け取れる。

 実際、昨年の議長国ドイツのショルツ首相はC7サミット会場に出向き、政策提言書を受け取った上でこう述べた。「民主主義には活気ある市民社会が必要だ。ロシアに限らず世界中で今、市民社会の関与の範囲がいかに制限されているか。議長国として、これに反対する明確なシグナルを送りたい」

 首脳による共同声明でも、結論のくだりで「市民社会との関与と交流は、民主主義国のグループとしてのG7にとって有益だった」と特筆している。

 人類の生存を脅かす、数々の問題が念頭にあるのだろう。早い話、温室効果ガスの排出削減は家庭部門の協力なしにあり得ない。国境を超え、市民社会に響くメッセージが今こそ望まれるとの認識がうかがえる。

 では、議長国としては今回初めて、C7と向き合った日本の対応はどうか。

 4月に東京都内であったC7サミットでは、72カ国の700人以上からの政策提言について2日間討議した。岸田氏は再三の来場要請に応えず、サミット前日に官邸での面会にとどまった。G7公式ホームページ上のC7の扱いも、昨年との落差を指摘する声が漏れてくる。

 もちろん、日本の市民社会の力不足が背景にあるのかもしれない。であれば、市民社会をより一層、後押しする気構えを示せばいいのではないか。

 議長国の役割は、国際政治における主導権を強めるためにだけ、あるのではない。市民社会に顔を向け、協働のメッセージも送るべきである。

(2023年5月10日朝刊掲載)

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