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社説・コラム

『潮流』 市民目線の問いこそ

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 大型連休中、平和記念公園を歩いた。人波と100メートル近くはあろうか原爆資料館前の長蛇の列に驚いた。インバウンド(訪日客)の回復に加え、広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)への注目の高まりをひしひしと感じる。

 ただ、注目は「期待」と同義とは限らない。核保有国と核依存国の首脳は被爆地でこその誓いを立てるのか、という懸念。首脳に直接働きかけを、という熱意―。若者や市民が数々の提言を編んで発信している。

 被爆地の報道機関として、本紙は7日の朝刊に5項目の提言を掲載した。首脳たちが原爆の悲惨をこの地で真に実感すれば「核と人類は共存できない」との結論に至るはずだ。提言に込めた「被爆者が生きているうちの廃絶」は、一瞬で絶命した犠牲者や、生涯の苦しみを背負った市民の声なき声を紙面に刻んできた新聞社に身を置く者の総意である。

 私自身はもう一つの「提言」にも片隅で関わった。中国新聞ジュニアライターの中高生記者が首脳に向けた提案を書き、翌日の朝刊に掲載するのをサポートした。

 事前取材で、被爆者の訴えとG7の駐日大使が説く国家の論理を聞いた。「大国クラブ」自体への疑問も含め、市民の多様な声に耳を傾けた。その上で中1から高3まで30人が、広島の子どもが問うべきことを議論した。「核兵器のない世界をどう実行するのか、説明してほしい」という発言が胸に刺さった。数十年後も核兵器が存在しているなら、その時代を生きるのは首脳たちではない。真っすぐな当事者意識が頼もしい。

 G7首脳が子どもに「核兵器を受け渡す。後は頼む」と言えるか。被爆者に「あなたの親類を殺した兵器は役に立つ。持ち続ける」と言えるか。サミット開幕まであと8日。開催決定からの約1年を振り返り、シンプルな問いに立ち返っている。

(2023年5月11日朝刊掲載)

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