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社説・コラム

社説 広島サミット ジェンダー 格差解消へ日本も行動を

 広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも重要な議題となるだろう。社会的・文化的につくられた性差「ジェンダー」に基づく偏見や不平等の解消である。

 女性や、LGBTなど性的少数者たちの権利保護は世界的に道半ばだ。新型コロナウイルス禍では失職や生活苦が、女性により多く見られた。性的少数者の生きづらさをなくす法整備が広がったとは言い難い。自由、民主主義、人権の基本的価値を共有するG7には国際社会でリーダーシップが求められる。

 しかし日本は胸を張って会議に臨める状態にない。男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数に象徴される。世界経済フォーラムの報告では146カ国のうち116位であり、政治と経済分野が特に低い。

 また性的少数者への差別を禁止する法律もなく同性婚を法的に認めてもいない。G7で際立って遅れ、ジェンダー分野に限れば先進国とは言えない。

 日本は日本だ、と開き直っていないか。広島サミットの首脳声明には性的少数者の人権状況改善に取り組む決意が明記される方向という。日本は決意だけでなく具体的に行動すべきだ。

 広島サミットを前に、LGBT理解増進法が成立するかどうかが焦点となっている。2年前に超党派の議員連盟で法案をまとめたが、自民党がストップをかけ、国会提出を見送った。

 自民党のここにきての対応は理解に苦しむ。「差別は許されない」との法案の文言を「不当な差別はあってはならない」と弱める修正案を示した。訴訟が多発するなどとして保守派の議員たちが反対したからだ。そもそも「正当な差別」などない。伝統的な家族観に固執する人に配慮し、当事者の人権を守る目的を見失ったように映る。

 直視すべきは今すぐ成立したとしてもG7で共有した約束が達成できない点だ。ドイツが議長国だった昨年のサミット首脳声明ではジェンダー平等を目指し、「性自認、性的指向に関係なく、誰もが差別や暴力から保護されることを確保する」と性的少数者の課題に各国が関わることを明言した。今回の自民党の修正案は明確に差別を禁止するとしておらず、不十分だ。

 岸田文雄首相は2月に飛び出した当時の秘書官の差別発言を思い出してほしい。政権中枢ですら差別の芽が潜む現実が露呈した。その後の世論調査で「理解増進法が必要」「同性婚を認める方がよい」はともに6割を超え、自民党内の後ろ向きな議論とは懸け離れている。

 首相の主導でG7の水準に追い付くよう行動すべきだ。何もしなければ、日本の国際的な信用が低下しかねない。

 サミットで問われるジェンダーの課題はほかにもある。男女格差にしても日本は恥ずかしいレベルだ。昨年のG7サミットは国ごとに施策の進展度合いを図示した「ダッシュボード」を初めて公表し、議論した。国会議員や理工系分野の卒業生の女性比率など政治と経済に直結する指標を中心に、何が遅れているのかが共有された。

 政治は与党が本気度を見せれば変わる。女性閣僚を増やすことや、議席や候補者のクオータ制導入という手法もある。議長国のトップにふさわしい行動を首相は今こそ見せるべきだ。

(2023年5月14日朝刊掲載)

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