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社説・コラム

社説 防衛財源確保法案 問題山積 ごり押し許されぬ

 防衛費を大幅に増やすための財源を確保する特別措置法案の審議が衆院で大詰めを迎えつつある。きのうは財務金融委員会の委員長解任決議案が連立与党などの反対多数で否決された。

 立憲民主党、日本維新の会など主要な野党4党は、法案と政府の増税方針に反対している。ただ、解任決議案には維新などが「遅延戦術には乗らない」と同調せず、足並みが乱れた。

 与党は週明けに委員会と本会議で法案を可決させ、参院に送る構えを見せるが、法案には問題が多い。まずは審議を尽くして疑問解消を目指すべきだ。

 2023年度からの5年間で総額43兆円の防衛費を投じるのが政府の方針だ。現行水準からの増額分、約17兆円をどう賄うかが課題で、税外収入や決算剰余金、歳出改革などで捻出しても1兆円程度は不足する。法人、所得、たばこ税の増税や建設国債などで賄うという。

 特措法案は、このうち税外収入の確保策と使途を定める。本年度予算で特別会計からの繰入金や国有ビル売却収入などを確保し、複数年度にわたり支出する枠組み「防衛力強化資金」を創設する。国会がチェックできなくなる恐れは否定できない。

 将来の増税には、与党内にも反対意見がある。もし認められなければ、借金頼みにならないか。国債発行で軍事費を増大させ続け、歯止めが利かなくなった戦前の反省をないがしろにすることは許されない。

 そもそも、防衛費の大幅増そのものに国民の理解は得られていない。自民党を含む歴代政権は、防衛費を国内総生産(GDP)比1%以内に抑えるという明確な歯止めを尊重してきた。それを2%に引き上げる「数字ありき」で43兆円が突然出てきた。必要なものを一つ一つ積み上げて出された金額ではない。

 使い道にも疑問がある。他国領域のミサイル基地などを狙う敵基地攻撃能力(反撃能力)保有やそのための長射程ミサイルは専守防衛の逸脱ではないか。

 岸田文雄首相の説明も分かりにくい。敵基地攻撃能力保有を記した安全保障関連3文書に関して「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と述べる一方で「非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての歩みを変えるものではない」とも説明する。「変わらない」のに大転換とは矛盾としか思えない。

 「岸田首相は、真の軍事大国に変えようと望んでいる」。米誌タイムが、首相を取り上げた最新の電子版記事でそう紹介した。外務省は異議を唱えたが、自らの政策が海外からどう評価されているのか、もっと「聞く耳」を持たねばならない。

 7日の本紙に載った安保に関する全国世論調査の結果から、国民の思いがうかがえる。敵基地攻撃能力の保有は賛成が61%だったが、防衛費を総額43兆円に増やす方針は「適切ではない」が58%。防衛力強化のための増税方針は「支持しない」が80%を占めた。ある程度の防衛力強化はやむを得ないが、大幅増額や増税は望んでいない、ということだろう。

 政府はこうした民意や野党の意見も踏まえ、防衛費の大幅増や財源確保策を考え直すべきである。まかり間違っても、戦後の平和主義や血税にも関連する今回の法案を数を頼りに押し切ることがあってはならない。

(2023年5月13日朝刊掲載)

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