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ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 戦争より平和の準備を ピースボート共同代表 川崎哲(かわさき・あきら)さん(54)=川崎市

  ≪平和活動に取り組むNGO(非政府組織)ピースボートの共同代表として、2008年から被爆者と一緒に航海し、原爆の惨禍を世界に伝えてきた。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))国際運営委員の顔も持ち、17年の核兵器禁止条約の成立に尽力した。≫

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 ロシアのウクライナ侵攻のあおりを受け、世界で戦争の準備がどんどん進んでいる。侵攻は国連憲章、国際法違反だ。許してはならない。そのロシアの蛮行に対し、上回るような軍備を持とうとする動きが、日本を含む西側先進国で起きている。非常に危険だ。

 軍備の増強が平和につながるとの主張もあるが、実際には、戦争が始まるリスクを高めるだけだ。各国がむき出しの軍事力で自国の安全保障を進めれば、際限のない戦争の繰り返しになる。本来強めるべきは国際法に基づく秩序だ。第2次世界大戦後にできた国連は、紛争を平和的に解決すると定めた。国家間の問題を解決するために戦争という手段を取るべきではないというのが基本原則だ。

 国連を中心とした国際法に基づく安全保障メカニズムの代表例が、核兵器禁止条約だ。ロシアによるあからさまな「核の威嚇」は許されないと法にのっとって言えるようになった。多国間の国際規範や国際法は極めて重要。その強化こそ、戦争を拡大させないために必要になる。

 禁止条約は世界の大多数の国がつくった。世界をぐるっと一周してみれば、いかに西側先進国といわれる国が少数国かが分かる。核兵器を持つのは9カ国、「核の傘」の下に入るのは30カ国ほど。残る150カ国余りは核兵器に依存していない。圧倒的多数だ。こうした国々は軍事同盟の力のバランスではなく、国際法に基づく国連中心の多国間外交に力点を置いている。

 ウクライナ侵攻という暴力行為を受けた「軍備増強が必要だ」という西側先進国の宣伝の中で、私たちの感覚はまひしている。もう一度冷静になり、紛争の平和的な解決を大原則にしようと、広島から世界に発信する必要がある。戦争ではなく、平和の準備を。いま声を上げないと、結局、痛い目に遭うのは私たちなのだから。(聞き手は宮野史康)

(2023年5月16日朝刊掲載)

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