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連載・特集

サミットと地域経済 <上> 脱炭素

 19~21日に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、気候変動と密接な脱炭素や、経済安全保障に不可欠な半導体の確保など、中国地方の産業と関わりの深い課題が議題になる。技術や人材を磨き、世界の急速な変化に対応できるか。地域経済の持続可能な未来図を考える。

EV量産へ技術を蓄積

火電は「高効率」に活路

 札幌市で4月にあったG7気候・エネルギー・環境相会合。共同声明は、電気自動車(EV)など、走行中に二酸化炭素(CO₂)を出さないゼロエミッション車の導入目標を示さなかった。一方で、G7各国の車のCO₂を2035年に00年比で半減できる可能性では一致した。世界が一気に電動化へ向かう流れは変わっていない。

 後発のマツダも電動化へアクセルを踏む。EVは日本や欧州、中国向けの2車種だけだが、30年に世界販売に占める比率を最大40%と見込む。「内燃機関や代替燃料などさまざまな組み合わせを適材適所で提供する手法が有効」。丸本明社長は段階的に進める重要性を説いてきたが、電動車を次々と投入し布石を打つ。

時間との勝負

 欧州と日本で昨年発売したスポーツタイプ多目的車(SUV)CX―60に、初のプラグインハイブリッド車(PHV)を設定した。3列シートのCX―90にもPHVを設けた。

 規模が小さいマツダは投資の費用対効果を重視する。具体的なEVの投入計画は、各国の規制や顧客のニーズが流動的とし、じっくりと練る構えだ。取引先との協業を含め、電動化対応に1兆5千億円を投じる方針。今はエンジン車やPHV、ハイブリッド車(HV)で稼ぎ、EVを28年以降に本格的に量産するための技術と資金を蓄える。

 ただ、22年のEVの世界販売台数は約726万台と前年より約7割増え、市場全体の1割に迫る。EVの存在感がさらに高まれば、時間との勝負になる。

 脱炭素はEVの拡大にとどまらない。本社宇品(広島市南区)と防府(防府市)の両工場で石炭を燃やす自家発電や部品メーカーなど、自動車産業の裾野にも広げる必要がある。

 自動車業界がサプライチェーン(供給網)全体でCO₂排出量の削減を求められる中、工場で使う電力の化石燃料からの脱却も迫られる。札幌会合の声明は「排出削減策が取られていない化石燃料使用の段階的廃止を加速させる」とうたう。

 電力の脱炭素は容易ではない。中国電力は21年度の発電実績の約9割を化石燃料が占める。昨年11月には石炭火力の三隅発電所2号機(浜田市、出力100万キロワット)を稼働した。一方、50年の温室効果ガスの実質ゼロを目指し、老朽化した火力発電所の休廃止も進める。燃やしてもCO₂が出ない水素、アンモニアも燃料に使う方針だ。

「延命」批判も

 瀧本夏彦社長は「30年代に入れば、水素やアンモニアの混焼を具体的に始めていく必要がある」と語る。

 切り札の一つが、広島県大崎上島町にある高効率の石炭火力発電所だ。電源開発(東京)と共同で技術開発を進め、水素の活用も視野に入れる。瀧本社長は「しっかりしたデータが取れ、成果は上がっている。これを一つの宝として、長い目で活用していく」と展開の方向性を探っている。

 しかし、環境団体は水素やアンモニアの利用、高効率の石炭火力に「火力発電の延命に過ぎない」と批判する。瀬戸内はコンビナートも集まり、CO₂排出量が多い。経済や雇用を維持しつつ、脱炭素をどう進めるか。難しい命題を突き付けられている。(桑田勇樹、秋吉正哉)

中国地方のエネルギー消費量
 二酸化炭素(CO₂)排出量の目安となる、国の都道府県別エネルギー消費統計(2020年度の暫定値)によると、人口千人当たりの消費量は山口県が249・9テラジュール(TJ、1テラは1兆)で全国2位。岡山県は244・2TJで3位、広島県は175・6TJで6位だった。コンビナートや製鉄所など化石燃料の消費が多い産業集積が背景にある。

(2023年5月16日朝刊掲載)

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