×

ニュース

開発と拡散の経過紹介 「原爆の世界史」刊行

 原爆を造ったのは米国で投下されたのは日本。現在の核保有は計9カ国だが南アフリカなども一時は保有を目指して―。核兵器の歴史を一口に言えば、こうだろうか。しかし最近刊行された「原爆の世界史 開発前夜から核兵器の拡散まで」(アンドリュー・ロッター著)は「開発と拡散」が一国単位というだけでなく、より複線的であるさまを俯瞰(ふかん)する。

 その一つは国境をまたいで交流した「科学者コミュニティー」。広島と長崎に投下した原爆を開発した米国の「マンハッタン計画」は英国やハンガリーの物理学者らが決定的な役割を果たした。日本も原爆開発を模索した。「米国が開発した」にとどまらない。著者は広島原爆は「世界の原爆」だと強調する。

 各国が核軍拡にまい進した経過を記す。「一方が新兵器の実験をすると、きまってもう一方が受けるべき挑戦だと解釈する」。ライバルの上に立とうとする歯止めなき競争に、使われる側への思いは希薄だ。インドの核実験時、国内に「われわれは去勢されていないことを証明しなければ」との発言があったという。強大な力への欲求という本質は、どの核保有国も同じ。近年特に注目される「ジェンダー視点」から核抑止を問うことの意義に気付く。

 この本は数々の原爆研究を踏まえた概説書として2008年に米国で出版され、神戸市外国語大の繁沢敦子准教授らが翻訳した。核兵器禁止条約の実現に向けた動きが加速する前の出版だが、条約の指弾する「非人道性」が開発と拡散の中でいかに軽視されてきたかを知る一助になる。

 広島で19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)には核保有国の米国、英国、フランスに加えインドの首脳が参加する。これらの国の来し方と、被爆地での発言に注目したい。ミネルヴァ書房刊、6050円。(金崎由美)

(2023年5月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ