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連載・特集

『生きて』 通訳・被爆者 小倉桂子さん(1937年~) <13> 心のろうそく

核なき世界へ 火をともす

 コロナ禍が少し落ち着いた昨年9月、米アイダホ州モスコーを訪れました。以前私の証言を聞いたアイダホ大の日本語講師が招いてくれました。「子どもたちに話す機会があるなら」との条件で渡米しました。

 原爆を落とした国の子どもに話したいのには理由があります。数年前家族で原爆資料館(広島市中区)にやって来た米国の子どもに話をした時、最後に「こんなひどい爆弾をどこの国が落としたの」と聞かれたのです。「ごめんね、アメリカなの」と答えるとその子は泣いてしまいました。そんなやりとりがあって、必ず子どもたちに話したいと思ってきました。原爆投下が「必要だった」と教えられる国の子にヒロシマの願いを伝えるのは本当に難しい。でも未来を変えられるのは彼らです。

 モスコーに着くと、「ヒロシマを忘れない」と日本語で書かれたアイダホ大でのイベントの看板が掲げられ、多くの催しが企画されていました。私はその一環で大人向けに被爆証言をし、小中学生には基町高の生徒が私の被爆体験を描いた紙芝居をスクリーンに映して話をしました。原爆被害を語るだけではなく、被爆者のために自ら家を建てた米国人フロイド・シュモーさんの話もしました。人と人が対話でゆるし合う大切さを伝えました。講演後、子どもたちは私の前に列をつくり口々に「よく分かった」と言ってくれました。

  ≪半年後のことし3月、アイダホ大の幹部たちが広島を訪れ、再会した。交流は深まる≫
 アイダホで私の話を聞いた学生たちはその後、紙芝居の英訳に取り組みました。夏には完成させ、それを携え、広島に来ることになっています。彼らの心のろうそくに私が火をつけられたのならうれしいです。

 40年以上平和活動に関わってきてヒロシマには人の心を動かす力があると信じています。いよいよ被爆地で始まる先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、首脳たちにはその力を受け止めてもらいたい。亡くなった人々の無念の声を聞き、核兵器がもたらす現実にしっかり向き合うよう願っています。人類が過ちを繰り返さないために。=おわり (この連載はヒロシマ平和メディアセンター森田裕美が担当しました)

(2023年5月17日朝刊掲載)

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