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社説・コラム

[広島サミット5・19~21] 核戦力強化 広がる脅威 ウクライナ侵攻後 世界の核弾頭増加の兆し

軍縮・不拡散へ 日本は具体的議論主導を

 ロシアによるウクライナ侵攻後、一部の国で核戦力や核抑止力を強化する動きが広がっている。特に中国や北朝鮮で核開発が強まっており、冷戦終結後に減り続けてきた世界の核兵器の数は今後数年で「増加に転じる」と多くの専門家はみる。19日から先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島市で始まる。「核のない世界」を手繰り寄せるため、具体的な議論をけん引することが議長国日本に求められる。(編集委員・東海右佐衛門直柄)

 「ウクライナ侵攻で世界の核情勢は大きく変わった」。広島市立大広島平和研究所の孫賢鎮(ソンヒョンジン)准教授は危機感を示す。

 核の威嚇を続けるロシアは2月、米国との核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を表明。3月には同盟国ベラルーシに戦術核を配備すると公表し、核による脅しをいっそう先鋭化させている。

 中国は、核弾頭を年100発以上も製造することができる高速増殖炉を建設中だ。2035年の中国の核弾頭数は1500発に達し現在(推計410発)の3倍超に増えるとの推計を米国防総省は昨秋に示した。

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮は昨年9月、核兵器使用のシナリオなどを定めた法令を採択した。また英国も、ウクライナ侵攻前の21年、核弾頭の上限を180発から260発に引き上げると表明している。

 懸念されるのは、非保有国でも核に依存する動きが強まっていることだ。

 イランを巡り、国際原子力機関(IAEA)は2月、濃縮度が核兵器級のウラン粒子を検知したと公表。核開発を加速させている可能性が指摘される。サウジアラビアも中国との核協力を拡大中で、核兵器開発を目指しているとの見方がある。

 韓国でも核抑止に頼る動きが強まる。米韓両政府は4月に「ワシントン宣言」を採択。米軍の原子力潜水艦が韓国に寄港できると明記した。日本でも、ウクライナ侵攻後に一時、「核共有」の議論が噴出し、その後もくすぶっている。

 世界の核弾頭総数は、米国と旧ソ連が対抗した冷戦末期に一時7万発を超えた。その後、米ロを中心に核軍縮が進展してきたが、ウクライナ侵攻を境に「核兵器がなければ国を守れない」という短絡的な考えが一部の国に広がる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)も昨年、「今後10年で核弾頭数が増加に転じる」との警告を発した。

 核情勢が厳しさを増す中、広島サミットが始まる。孫准教授は「被爆地開催を単なる『政治ショー』で終わらせるのではなく、核軍縮・不拡散の具体的な議論につなげてほしい。核使用がもたらす非人道的な結末を、日本は熱意を持って各国に伝え議論を主導してもらいたい」と訴える。

(2023年5月17日朝刊掲載)

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