[歩く 聞く 考える] 広島サミットと核廃絶 具体的な「次の一歩」 提示を 広島大平和センター長 川野徳幸さん
23年5月17日
先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の開幕が19日に迫る。岸田文雄首相はロシアのウクライナ侵攻や中国、北朝鮮の核戦力強化に直面する今、「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない」と繰り返す。核兵器廃絶への動きが停滞する中、被爆地でのサミットに期待されるものは何か。広島大平和センター長の川野徳幸さん(56)に聞いた。(論説副主幹・山中和久、写真・浜岡学)
―広島でサミットが開かれる意義をどう考えますか。
初めて核兵器が落とされた地として名前を知られた広島で開催すること自体が意味を持っています。広島が求め続けるのは「核なき世界」。この思いがサミットを通じ、世界に広く共有される千載一遇のチャンスです。広島が望むサミットの成果も核なき世界をいかに実現していくか、その具体策を提示することです。議長国として、唯一の戦争被爆国のトップとして、岸田首相のリーダーシップで次の一歩を進めるんだと示してもらいたいのです。
―核保有国の米英仏を含むG7首脳がそろって平和記念公園を訪れます。
広島で原爆被害を感じてもらうことは重要です。原爆資料館を見学し、被爆者の声を聞き、きのこ雲の下で何があったのかを少しでも理解して臨む議論は違ってくるはずです。想像してほしいです。首脳たちが信じる核抑止は、撃たれたら撃ち返さないといけない。そうなれば自国と相手国との双方が被爆国になるのですから。
―ウクライナに侵攻したロシアは核使用をちらつかせています。どう対応すべきでしょうか。
核なき世界とともに広島が求めるのは「絶対非戦」です。ところがウクライナの戦闘は長期化してしまい、出口が見えません。多くの無辜(むこ)の人たちが犠牲になっています。岸田首相は停戦、そして最終的には終戦への道筋を探るべきです。ロシアによる核の威嚇は絶対許されませんが、今は使わせないためにどうするかを第一に考えてもらいたいです。
―具体的には。
G7が足並みそろえてロシアを非難することに終始すれば分断を深めるだけです。ロシアの孤立は核なき世界を遠のかせます。溝を埋め、ウクライナとロシアが同じテーブルに着く方法を考えなければなりません。欧米から、追加の軍事支援はしても戦争をどう止めるかの議論が聞かれなくなったのは憂慮すべき事態です。ウクライナの主権を守り、和平を実現するためだと改めて確認すべきでしょう。
―サミットに先立つ外相会合は核抑止力を肯定し、核なき世界を「究極の目標」としました。
核兵器が存在する限り、ひとたび戦争が起きれば使用のリスクが高まると世界は骨身に染みたはずです。核なき世界が遠い先であってはなりません。プーチン大統領にも被爆の実態を見てもらうべきだと思います。
核兵器禁止条約には122カ国・地域が賛成しました。被爆者の声を聞いた市民社会のうねりから生まれた「世界の常識」だとうなずけます。G7はロシア、中国も加わる核拡散防止条約(NPT)体制を重視しています。しかし核廃絶という目標が同じなら、もう一つのとりでである核兵器禁止条約と背反するものではないでしょう。核保有国と非保有国の垣根を越えて本気で考えるべきです。
―日本は核兵器禁止条約に背を向けて恥じません。
「核保有国が一つも入っていない」「橋渡しが大事」と言っているだけでは何も進みません。ドイツは締約国会議にオブザーバー参加しました。日本も一歩を踏み出さなければなりません。条約参加について、国会で真剣に議論する時です。
―広島大平和センターは核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とともに先月、広島G7ユースサミットを開きました。
78年前につくられた核兵器を私たちはいまだ減らすこともできず、このままでは核なき世界を次の世代に託さざるを得ません。ユースサミットに参加した、G7各国を含む若者が実現に強い意志を示してくれたのは希望です。
■取材を終えて
サミットの広島開催は岸田首相しか、決断できなかった。被爆地で開く以上、核廃絶を前に進める結果が問われるのは覚悟の上だろう。後に振り返って、広島サミットが「転換点だった」と言われる内容を求めたい。
かわの・のりゆき
鹿児島県志布志市生まれ。広島大大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了。医学博士。同大原爆放射線医科学研究所助手、同大平和科学研究センター(現平和センター)准教授を経て2013年に同センター教授。17年、センター長兼任。専門は原爆・被曝(ひばく)研究、平和学。広島市の平和宣言に関する懇談会委員などを務める。
(2023年5月17日朝刊掲載)
―広島でサミットが開かれる意義をどう考えますか。
初めて核兵器が落とされた地として名前を知られた広島で開催すること自体が意味を持っています。広島が求め続けるのは「核なき世界」。この思いがサミットを通じ、世界に広く共有される千載一遇のチャンスです。広島が望むサミットの成果も核なき世界をいかに実現していくか、その具体策を提示することです。議長国として、唯一の戦争被爆国のトップとして、岸田首相のリーダーシップで次の一歩を進めるんだと示してもらいたいのです。
―核保有国の米英仏を含むG7首脳がそろって平和記念公園を訪れます。
広島で原爆被害を感じてもらうことは重要です。原爆資料館を見学し、被爆者の声を聞き、きのこ雲の下で何があったのかを少しでも理解して臨む議論は違ってくるはずです。想像してほしいです。首脳たちが信じる核抑止は、撃たれたら撃ち返さないといけない。そうなれば自国と相手国との双方が被爆国になるのですから。
―ウクライナに侵攻したロシアは核使用をちらつかせています。どう対応すべきでしょうか。
核なき世界とともに広島が求めるのは「絶対非戦」です。ところがウクライナの戦闘は長期化してしまい、出口が見えません。多くの無辜(むこ)の人たちが犠牲になっています。岸田首相は停戦、そして最終的には終戦への道筋を探るべきです。ロシアによる核の威嚇は絶対許されませんが、今は使わせないためにどうするかを第一に考えてもらいたいです。
―具体的には。
G7が足並みそろえてロシアを非難することに終始すれば分断を深めるだけです。ロシアの孤立は核なき世界を遠のかせます。溝を埋め、ウクライナとロシアが同じテーブルに着く方法を考えなければなりません。欧米から、追加の軍事支援はしても戦争をどう止めるかの議論が聞かれなくなったのは憂慮すべき事態です。ウクライナの主権を守り、和平を実現するためだと改めて確認すべきでしょう。
―サミットに先立つ外相会合は核抑止力を肯定し、核なき世界を「究極の目標」としました。
核兵器が存在する限り、ひとたび戦争が起きれば使用のリスクが高まると世界は骨身に染みたはずです。核なき世界が遠い先であってはなりません。プーチン大統領にも被爆の実態を見てもらうべきだと思います。
核兵器禁止条約には122カ国・地域が賛成しました。被爆者の声を聞いた市民社会のうねりから生まれた「世界の常識」だとうなずけます。G7はロシア、中国も加わる核拡散防止条約(NPT)体制を重視しています。しかし核廃絶という目標が同じなら、もう一つのとりでである核兵器禁止条約と背反するものではないでしょう。核保有国と非保有国の垣根を越えて本気で考えるべきです。
―日本は核兵器禁止条約に背を向けて恥じません。
「核保有国が一つも入っていない」「橋渡しが大事」と言っているだけでは何も進みません。ドイツは締約国会議にオブザーバー参加しました。日本も一歩を踏み出さなければなりません。条約参加について、国会で真剣に議論する時です。
―広島大平和センターは核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とともに先月、広島G7ユースサミットを開きました。
78年前につくられた核兵器を私たちはいまだ減らすこともできず、このままでは核なき世界を次の世代に託さざるを得ません。ユースサミットに参加した、G7各国を含む若者が実現に強い意志を示してくれたのは希望です。
■取材を終えて
サミットの広島開催は岸田首相しか、決断できなかった。被爆地で開く以上、核廃絶を前に進める結果が問われるのは覚悟の上だろう。後に振り返って、広島サミットが「転換点だった」と言われる内容を求めたい。
かわの・のりゆき
鹿児島県志布志市生まれ。広島大大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了。医学博士。同大原爆放射線医科学研究所助手、同大平和科学研究センター(現平和センター)准教授を経て2013年に同センター教授。17年、センター長兼任。専門は原爆・被曝(ひばく)研究、平和学。広島市の平和宣言に関する懇談会委員などを務める。
(2023年5月17日朝刊掲載)