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連載・特集

サミットと地域経済 <中> 経済安保

半導体確保で日米連携

誘致も視野に人材育成

 「マイクロンと広島、日米の絆を祝福したい。これは節目となる出来事だ」。昨年11月、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの子会社、マイクロンメモリジャパンの広島工場(東広島市)であった最先端製品の量産開始の式典。ラーム・エマニュエル駐日米大使は力を込めた。

 式典にはマイクロン・テクノロジーの関係者だけでなく、経済産業省や広島県の関係者を含め約200人が出席した。この1カ月半ほど前、経産省は広島工場の増強計画に最大465億円を助成すると発表したばかり。半導体分野で日米の経済安全保障の連携を象徴するようでもあった。

投資が相次ぐ

 広島工場は高速で消費電力の少ない「1β世代」と呼ばれる最先端のメモリー半導体を手がける。増強計画には、日本政府から増産要請のあった製品に生産能力を集中させることも盛り込まれた。

 広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、20日に半導体を含めた経済安保の協議を予定する。中国などへの依存を脱却するため、半導体のサプライチェーン(供給網)強化をうたうとみられる。

 半導体関連の投資は中国地方でも活発だ。半導体製造装置メーカーのディスコ(東京)は呉市に新工場の建設を計画する。日立ハイテク(同)は下松市で約240億円を投じて製造装置の工場を新設し、2025年度に稼働する。

 半導体不足は、マツダが減産を強いられるなど地域経済に悪影響をもたらした。米中摩擦やウクライナ危機による物流の混乱もあり、半導体は経済安保上の重みを増す。医療機器や家電など多くの製品に不可欠だが、日本の関連産業は海外勢に後れを取っている。

 中国地方には苦い経験がある。「日の丸半導体」の再興を担い、東広島市に主力工場を置いたエルピーダメモリ(東京)は12年に経営破綻した。マイクロン・テクノロジーが買収して工場は存続したが、地場銀行のある幹部は「半導体大手と取引する中小への貸し出しは、景気のサイクルを考えながらリスクを取る必要がある」と慎重に見通す。

産官学で拠点

 人材育成も欠かせない。4月、広島大ナノデバイス研究所(東広島市)に新たな施設が完成した。東広島市と広島県、企業などが半導体開発で協力する「せとうち半導体共創コンソーシアム」の拠点となる。次世代半導体を開発する最新設備、大学や企業の研究者たちの交流スペースも設け、人が育つ環境を整えた。

 同研究所の黒木伸一郎教授は「ゆくゆくは企業に近くで生産拠点を設けてもらえれば」と期待する。

 国内では世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に進出。NTTやトヨタ自動車などが出資する新会社のラピダスは北海道で新工場の建設を予定する。国際競争の激しい半導体産業が地域経済の新たな柱になるかどうか。技術者の養成など、地域を挙げた受け入れ態勢も問われる。(服部良祐、高木潤)

(2023年5月17日朝刊掲載)

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