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連載・特集

サミットと地域経済 <下> 人への投資

学び直しでデジタル化

生産性向上 中小に課題

 暇を見つけてはスマートフォンやパソコンを開く。出張の移動や帰宅後も貴重な学習時間だ。通信教育大手ベネッセコーポレーション(岡山市北区)の雨森松彦さん(33)は、情報分析ツールなどの使い方をオンライン講座で学んでいる。

受講ほぼ全員

 仕事は学校を回る営業担当者のサポート。ベネッセが提供する学習支援ツールで得られる生徒の理解度を分析し、指導に役立ててもらう。分析力を磨くためにもリスキリング(学び直し)が欠かせない。「仕事の進め方が早くなった」と手応えを感じる雨森さん。新型コロナウイルス禍で加速した社内と教育現場のデジタル化に対応する。

 雨森さんが受講するのは、米国発の教育講座「Udemy」(ユーデミー)だ。ビジネス用は語学やデジタル技術など1万以上。ベネッセはコロナ禍の2020年5月、受講費を全て会社が負担する制度を設けた。主力の進研ゼミでタブレット端末の受講が7割を占め、教材作りでもデジタルの知識が要る。22年度は、ほぼ全社員が受けた。

 倉敷市で4月に開かれた先進7カ国(G7)労働雇用相会合は、リスキリングの重要性を確認する共同声明を採択するなど「人への投資」を促す姿勢を鮮明にした。デジタル化や脱炭素の促進など産業構造の変化に対応するだけでなく、生産性の向上や賃上げにもつながるとの観点からだ。

 人への投資が重みを増す背景には、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少もある。中国地方は全国の中でも減り幅が大きい。デジタル化や人工知能(AI)の活用を含めた生産性の向上は待ったなしだ。

採用難 拍車も

 「自己磨き支援制度」を今月導入したのはデジタル写真加工のアスカネット(広島市安佐南区)。社員がデジタル技能や語学などのスキル習得を会社に申請し、承認されれば1人当たり年5万円まで費用を支給する。功野顕也専務は「技術革新や業務改善に必要な方法や答えは、現場にこそある。新制度で社員の発想を具現化し、会社が成長するための原動力としたい」と狙いを説明する。

 AIは有益な半面、対話型のチャットGPTなど、生成AIには弊害もある。12~15日に富山、金沢市で開かれたG7教育相会合でも、安易な利用が考える力や創造性へ影響を及ぼすとの懸念や、著作権侵害などのリスクが指摘された。19~21日に広島市であるG7サミットでも重要議題に急浮上している。

 アスカネットも生成AIの活用法やリスクを調査する社内チームを昨冬に設置し、社員数人が議論を重ねている。功野専務は「リスクを含め、AIなど新技術へのアンテナを張ることがスタートアップ企業には不可欠。そのためにもリスキリングが必要だ」と語る。

 リスキリングに経営資源を注ぐ余裕のない中小企業は多い。大手との格差が広がれば採用難に拍車がかかる。人材コンサルティングのひろぎんヒューマンリソース(中区)の岡崎裕一社長は「中小も業務の多様化や専門化が進んでおり、リスキリングをしなければ生き残れない」と指摘。「都市圏などで働く専門人材を非常勤で雇い、社内の人材育成を担ってもらう方法もある」と提案している。(加田智之、小川満久)

生産年齢人口
 国内の生産活動を中心となって支える人口。経済協力開発機構(OECD)は15~64歳の人口と定義している。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、広島県は2045年に128万3476人と15年比で23.8%減る見通し。同じ期間の総人口の減少率は14.6%で、生産年齢人口の減少幅が大きく上回っている。

(2023年5月18日朝刊掲載)

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