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[ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 被爆地を核抑止の強化誓う場にしないで 被爆者 サーロー節子さん(91)=カナダ・トロント市

  ≪広島女学院高等女学校(現広島女学院中高、広島市中区)2年の時、爆心地から1・8キロの学徒動員先で被爆した。約半世紀にわたり、北米での体験証言と反核運動を地道に続け、核兵器禁止条約が実現した2017年には、非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞授賞式で演説した。先進7カ国首脳会議(G7サミット)へ、核兵器も戦争もない世界を願う「ヒロシマの声」を響かせる。(聞き手は金崎由美)≫

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 サミットは核兵器に依存する指導者たちが「過ちは繰返しませぬから」と刻まれた原爆慰霊碑の前で死者を悼む機会になる。それ自体矛盾に満ちていますが、せめて政治家というよろいを着て表面的な発言をすることなく、人間として犠牲者と向き合ってほしい。多くの級友と親類を失い、「死者とともに生きる」と誓った被爆者としての切なる願いです。

 ただ岸田文雄首相の核軍縮提案「ヒロシマ・アクション・プラン」や先のG7外相会合の合意文書を見ても、成果は楽観できない。日本を含むG7の首脳は「核なき世界」を唱えながら具体性はなく、核兵器は自分や仲間を守ると言います。しかし私たちにとって核兵器は絶対悪。廃絶のみに人類存続の希望があると懸命に訴えてきた。「廃絶」の意味も重みも違うのです。

 ロシアのウクライナ侵攻と核の威嚇という蛮行が続く。プーチン大統領を絶対に許してはならない。何事も、侵略行為と人命殺傷の口実になりません。亡き夫ジムにウクライナ系の親戚がいる身としても身が切られる思いです。

 でも広島をロシア非難の場で終わらせないで、と議長役の岸田首相に言いたい。7カ国が自ら核に頼る実態は脇に置き、核抑止強化を誓うなら被爆地への裏切りに等しい。

 世界はおととし、核兵器禁止条約の発効という歴史的成果を得ましたが、日本を含むG7の国はかたくなに背を向けています。それでも貢献は可能です。核実験被害国を支援する基金の創設へ、議論が始まりました。非締約国も拠出金を出すことはできます。

 米英仏は戦後、核実験被害を広げました。拡大会合に加わる核武装国インドと英核実験場があったオーストラリアでも国民が苦しんでいます。核を巡る自国の過ちの責任を取らない国が、廃絶に本腰を入れるでしょうか。被爆国が提案を主導すべきです。

 私の中の希望は、市民の活動。学生、大人、市民がサミットを機に結集し、政策提言を発信しています。声を上げていきましょう。私も帰郷中の広島で注視します。国連に足を運んで痛感したのは、核を含む軍事力と経済力を盾に、権力と利益を追求する大国の横暴ぶりでした。「リーダーも大変だろう」という忖度(そんたく)は不要です。核の権力者に言葉を突きつけることを、恐れないで。

(2023年5月19日朝刊掲載)

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