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社説・コラム

天風録 『核なき世界つくる言葉を』

 被爆から4年を経ても傷癒えぬ広島。ある平和集会で一人の女性が発言する。「原爆がなければ落とさずに済む。もう造らないで」。この訴えを拍手が包み、大会宣言に急きょ加えられた一文。広島市民として「原子爆弾の廃棄」を要求します―▲広島が発した初の原爆禁止アピールである。連合国軍総司令部(GHQ)が目を光らせていた占領下。原爆は戦争を終わらせた―という米国の論理で、被爆者は声を抑え込まれていた。憎い原爆なのに。そこへ出てきた勇気ある訴えが社会を動かす▲原爆禁止は国際的な平和会議でも叫ばれ、署名運動が広がっていった。一方で、核の恐怖もまた世界を覆っていく。第五福竜丸の被曝(ひばく)、キューバ危機、核兵器の拡散…。以来ずっと、核によって人類がいつ滅びてもおかしくない状況が続いている▲G7広島サミットがいよいよ始まる。ウクライナに侵攻したロシアが核使用をほのめかす今、被爆地に首脳が集うのは意義深い。国連事務総長も広島に。核のない世界へと踏み出せるか▲すでに核兵器を禁じる条約はできている。勇気ある、力強い声明を発し、核の時代を終わらせてほしい。声なき、泉下の被爆者たちも望んでいる。

(2023年5月19日朝刊掲載)

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