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社説・コラム

社説 広島サミットきょう開幕 「核なき世界」へ道を開け

 ついにこの日を迎えた。広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)がきょう開幕する。議長となる岸田文雄首相が開催地を決定して1年。被爆地でサミットを開く重みを、私たちは改めて心に刻んでおきたい。

 人類史上、初めて核兵器の惨禍を経験した都市で核の問題を含む世界の明日を論じ合う―。東京、沖縄、洞爺湖、伊勢志摩という過去の日本の開催地と比べ、歴史的意義は際立つ。米英仏と拡大会合のインドも加え、核保有4カ国の首脳が被爆地に集う、またとない機会となる。

 地元が当初期待した盛り上がりよりは、緊迫感が漂う。何よりロシアのウクライナ侵攻が長期化し、終結の見通しが立たないまま「戦時下」の開催となったからだ。さらに台湾海峡の緊張をいたずらに高める中国や核・ミサイル開発を加速する北朝鮮への対応も問われる。深刻な気候変動に加え、急浮上した人工知能(AI)の規制など、向き合うべき課題は山積する。

 拡大会合にはインドや韓国、ブラジルなどの8カ国の首脳を招き、国連のグテレス事務総長も広島入りする。G7の結束を誇示してロシアや中国をけん制するばかりでなく、国際社会の多様な声も踏まえた幅広い議論が求められるはずだ。全てを通じて「平和」と「協調」を徹底する。そのことも世界の恒久平和を訴え続ける被爆地でサミットを開く意味ではないか。

 被爆地が求めるものははっきりしている。岸田首相も繰り返し語る「核兵器のない世界」への確かな道を開くことだ。

 ロシアの核使用の威嚇を踏まえて「絶対に使わせない」とメッセージを発信するのは当然のことだ。停滞どころか後退する核軍縮・不拡散の強化をうたうことも想定される。しかし、それだけなら納得できない。

 核廃絶を「理想」とし、現実はまた別だとして棚上げするのではなく、このサミットでその溝を埋める明確な決意を示すべきだ。保有国や日本を含む同盟国が背を向ける、核兵器禁止条約を批准したベトナムなどが参加することも頭に置きたい。

 原爆資料館に近年、寄贈された家族写真の数々を思う。繁華街で理髪店を営む鈴木六郎さん一家を被爆前に写した。猫を背負い、道路に落書きし、笑顔で行楽に出かけ、眠りにつく。カメラ好きの父が残した子どもたちのスナップ写真を見ると胸が張り裂けそうだ。夫婦と4人のきょうだいは原爆で全滅した。これが核兵器の現実である。

 きょうG7の首脳たちが平和記念公園を訪れ、原爆資料館を視察する運びだ。こうした核の非人道性を直視してほしい。

 きのうは一連の外交日程がスタートした。広島入りしたバイデン米大統領と岸田首相の首脳会談が行われ、日米同盟の重要性を確認した。

 核廃絶に向けて「現実的なアプローチ」を唱える日本政府が米国の核の傘に平気で依存する姿勢は見たくない。核抑止力は必要だと、被爆者の思いとは真逆のアピールを広島サミットで行うことは願い下げである。

 広島市内や首脳一行が訪れる宮島(廿日市市)などでは、厳しい交通規制が断続的に続く。地域住民は日常生活に少なからぬ不便を被る。その理解を得るためにも被爆地に向けて、胸が張れる成果を残してほしい。

(2023年5月19日朝刊掲載)

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