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核不使用声明 日本、不安抱え賛同 豪外交文書で判明 米「核の傘」考慮

 昨年10月の国連総会第1委員会に出された核兵器の非人道性と不使用を訴える125カ国の共同声明に、日本が初めて賛同するまでの交渉経過が、オーストラリア外務貿易省の開示文書で一部明らかになった。提案国のニュージーランドが被爆国に狙いを定めて外交攻勢を仕掛け、「核の傘」(核抑止力)を差し出す米国との関係を弱体化させるとの不安を抱きながら、日本がかじを切った様子が浮かぶ。

 オーストラリア外務貿易省と同国の軍縮大使や日本の外務省などが主に昨年10~11月にやりとりした電子メールや報告文書で、計112ページ。国際非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が同国の情報公開法に基づき先月入手した。

 日豪は、米国の核抑止力に依存した安全保障政策を掲げ、核拡散防止条約(NPT)を通じた「着実な」核軍縮を志向。一方、核兵器廃絶への動きを加速させたいスイスやメキシコなどは、2012年から国連総会とNPT準備委員会の場で核の非人道性や不使用を求める声明を提案している。賛同しない日豪政府に対し、両国の市民団体や被爆者が批判を重ねてきた。

 開示文書によると、オーストラリアは昨年の国連総会でも核の傘への影響を懸念、「いかなる状況下でも核兵器が使われないことが人類の生存につながる」との文言に強硬に反発している。日本も同様に、一時はこの文言の修正を賛同の条件にしていた。

 9月下旬の文書では「一連の問題が日本を非常に不安にさせている」と報告。交渉の行方や米国の反応に気をもむ様子が読み取れる。10月10日になって、「日本は2週間の検討の末、外務省が岸田文雄外相に賛同を助言した」とした。別のメールは、日本に対する「米国の強い反応」を踏まえた出方を豪も考慮すべきだとしている。米国による厳しい日本非難が、オーストラリアをさらに慎重にさせた可能性があるとみられる。(金崎由美)

一層の働き掛けを

ティム・ライトICAN・オーストラリア代表の話

 日本は一歩前進したが、核兵器禁止条約につながる動きを拒否する点は両国とも同じ。市民の働き掛けが一層必要だ。

【解説】被爆地の声 外相押す

 12の非核保有国でつくる軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)をともに主導し、来月には広島での外相会合も控える日本とオーストラリア。核軍縮で常に共同歩調を取りながら、昨年秋の国連総会では声明をめぐる対応が分かれた。被爆地の世論が地元選出の岸田文雄外相を動かした。その一点に尽きるだろう。

 オーストラリアがいかに米国の「核の傘」に悪影響を及ぼす動きに神経をとがらせているか。開示文書からにじみ出ている。ある外交官は「声明に積極的な国は核兵器禁止条約を目指している」と警戒。別の高官は「使用がもたらす人道上の結末がすさまじいからこそ核抑止力は機能する」と依存を正当化した。

 被爆地の感覚とは到底相いれない。一体どの国がオーストラリアに核攻撃を仕掛けるというのだろう。これほど非人道的で危険な兵器が自国を安全にしていると信じて疑わない。そんな文言には驚きすら覚える。

 だが、国連での声明に名を連ねたからといって、日本が核の傘を求めている実態も何ら変更はない。そのことを忘れてはならない。

 来月は、NPDI外相会合に続き、核拡散防止条約(NPT)準備委員会が控える。秋にはまた国連総会がある。核兵器の非人道性を指弾し、不使用を訴えるための提案がさらに踏み込んだ内容になったとき、日豪両国はどうするのか。再び背を向ければ、核兵器廃絶を目指す機運に水を差しかねない。あらためて被爆地からの発信が問われる。(金崎由美)

(2014年3月12日朝刊掲載)

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