×

ニュース

惨禍伝わったか 歴史刻む見学 「密室」40分 原爆投下国の米に配慮も

 世界のトップたちに、被爆の惨禍はどこまで届いたのか―。米英仏の核保有国3カ国を含む先進7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳たちが19日、平和記念公園(広島市中区)内の原爆資料館を約40分間かけて見学した。続いて原爆慰霊碑に献花し、78年前に1発の原爆で奪われた多くの犠牲者を悼んだ。一方、資料館内でのメディアの取材は認められず、日本政府も詳細を明かしていない。(和多正憲、太田香)

 午前10時半ごろ、雨が続く公園に最初に到着したのは、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長だった。資料館の東館前では、岸田文雄首相が笑顔で出迎えた。続いて各国首脳が次々と降り立ち、順番に館内へ。同11時20分ごろ、最後に着いたバイデン米大統領が、岸田氏と共に館内に足を踏み入れた。

 白いシートで窓が目張りされた館内の様子は外からうかがえない。正午過ぎ、首脳たち9人は入館時と同じ東館から出てきた。見学時間は約40分間。バイデン氏は隣を歩く岸田氏の肩にそっと手を置いた。

 外務省などによると、館内では岸田氏が展示品の一部を説明し、被爆者の小倉桂子さん(85)=中区=とも対話したという。病床で小さな鶴を折り続け、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの逸話も紹介したとするが、具体的な中身は示されていない。

 首脳たちは雨が上がった公園内の中央参道をゆっくりと進み、慰霊碑に花輪を手向けて黙とう。その後、原爆ドームを背景に記念撮影に臨んだ。サミットの通例と異なる、笑みのない記念写真となった。

 「資料館の中をどれだけの時間をかけて見たのか。(窓に)目張りする必要があったのか」。報道陣の取材に、広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(81)は不満も口にした。厳重な警備の下、「密室」で行われた資料館の見学には、原爆投下国である米国への日本政府の配慮もうかがえる。記者会見で見学内容を問われた滝川卓男館長は、同じ言葉を繰り返すしかなかった。「政府行事の一環。視察時の対応は政府にお尋ねいただきたい」

 岸田首相はこの日夜、主会場のグランドプリンスホテル広島(南区)で報道陣に対し、首脳たちの資料館訪問について「準備、調整の過程で訪問内容や、やりとりを非公開とすることになった」と説明した。

(2023年5月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ