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核廃絶へ生かしてこそ 原爆資料館見学の意義訴え 館内展示に弟の遺品 南口さん

 「核兵器の非人道性が伝わったはずだ」―。先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席している首脳たちが原爆資料館(広島市中区)を見学した19日、弟の遺品が館内に展示されている被爆者の南口勝さん(92)=広島県府中町=は、核廃絶への期待を膨らませる一方で「バイデン米大統領から謝罪はなかった」と無念さもにじませた。

 午前10時。テレビの生中継で平和記念公園が映し出されると、南口さんは食い入るように画面を見つめた。各国首脳が一人ずつ原爆資料館へ入る様子を見届け、バイデン大統領の番に。降車までの時間に「見学の時間が少なくなる。さっさと出てきて」と待ちきれない思いを口にした。

 県立広島第一中学校(現国泰寺高)の1年生だった弟の修さんは、あの日、市中心部で建物疎開作業中に被爆。見知らぬ男性の自転車で宇品町(南区)の自宅まで運ばれた。展示されている革ベルトを、修さんは最期まで握り締めていた。

 「体が真っ赤に焼けただれ、頭も顔も膨れていた。あれほどひどい大量殺りくをした罪は重い」。何十年も、新聞への投書や証言で怒りをあらわにしてきた。7年前、原爆資料館の滞在がわずか10分だった当時のオバマ米大統領に失望。今回のG7サミットを「ロシアが核兵器の使用をちらつかせる中、絶好の機会。とにかく資料館をじっくり見てほしい」と願ってきた。

 その思いがやっとかなった。「おふくろが毎朝毎晩、仏壇から出してきてさすっていたベルトだ。バイデン大統領たちにきっと見てもらえたと思う」と南口さん。首脳たちが原爆慰霊碑に献花する映像を眺めながら「ただ見ただけ、で終わらせてはならない。今日の気持ちを核廃絶に向けた次の一歩に生かすことが、広島でサミットを開いた意義になる」と力を込めた。(桑島美帆)

(2023年5月20日朝刊掲載)

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