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社説・コラム

天風録 『核を持つ過ち』

 赤いカーペットが原爆資料館の入り口に敷かれていた。G7広島サミットの首脳たちを岸田文雄首相夫妻が出迎える。ところが最後のバイデン米大統領がなかなか現れない。車を降りるまでも長くかかった。見学に腰が重かったのだろうか▲原爆を落とした国の大統領が入館するのはオバマ氏以来だ。やはり核を持つ英仏の首脳も。原爆の熱線と放射線が人と街をいかに焼き、苦しめたか。約40分でも、胸に刻まれただろう。対面した被爆者の訴えとともに▲雨が上がり、慰霊碑に花輪をささげた首脳たち。足取り重く見えたのは展示の品々が胸に迫ったからか。見学の様子は明らかにされぬが、そう信じたい。見学や献花はセレモニーではない。見聞きしたものを記憶するのは、あなた方の義務でもある▲過ちは繰り返さない。慰霊碑に刻まれたメッセージは人類の誓いであるべきだ。広島市長が首脳たちに語りかけていた。核兵器を使うこと、保有することの過ちを痛感したのではないか▲世界には核を手にしたがる国が今もある。ロシアは使用をちらつかせる。脅しと侵略を受けるウクライナの大統領が広島を訪れ、会合に加わる。核兵器も戦争もなくさねばならぬ。

(2023年5月20日朝刊掲載)

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