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社説・コラム

核禁止「法の支配」を 編集委員 水川恭輔 G7広島サミット

 核兵器を持つ米英仏を含む先進7カ国(G7)の首脳が、初めてそろって広島市の平和記念公園を訪れた。「法の支配に基づく国際秩序」を掲げるG7。園内を巡った首脳は、明白な事実を感じ取れただろうか。いかなる核兵器の使用も国際法に違反すると。

 首脳の足元には、爆心直下で壊滅した街の遺構が眠っていた。原爆の爆風、熱線のすさまじさゆえに、今の公園一帯にいた人の死亡率は100%近い。幼子も多く巻き込まれた。明らかに、国際人道法が禁じている無差別な攻撃である。

 原爆資料館では、佐々木禎子さんの折り鶴が紹介されたという。2歳で原爆に遭い、放射線の影響で被爆者に急増した白血病を発症して12歳で亡くなった。戦後も市民の命を奪い続けた実態は、核兵器が同法の禁じる「不必要な苦痛」を与える兵器である証しだ。

 2017年、このような核使用の違法性が土台となって、使用にとどまらず使用の威嚇、保有など核に関わるあらゆる行為を禁じる核兵器禁止条約が国連で採択された。一日も早い核兵器廃絶を訴える被爆者たちは、条約に背を向けるG7各国の首脳の被爆地訪問が禁止条約の支持や批准に少しでもつながるよう願ってきた。

 批准は、いざとなれば核を使うという脅しに基づく核抑止政策からの脱却と不可分だ。しかし日本政府は18日の米国との首脳会談で、米国の「核の傘」は不可欠と確認。原爆を使った当事国にその違法性を問う様子もなく、核の力の提供を求めた。平和記念公園を訪れる意義を自ら大きく損なわせたと言うほかない。

 資料館には、禁止条約への被爆者の貢献や課題を伝える英文パネルも展示されている。「核保有国や核の傘の下にある国々を含む全ての国の条約締結を促進することが、国際社会の課題」。G7の首脳は読んだだろうか。ウクライナに侵攻したロシアが核使用を辞さない構えの中、核兵器を禁止する「法の支配」を広げようと動く首脳は現れるだろうか。被爆地には行動を促し続けることが重要だ。

(2023年5月20日朝刊掲載)

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