×

ニュース

被爆地のG7 首相主導 訪問の意義 説き続け 広島サミット開幕

 先進7カ国(G7)の首脳が平和記念公園(広島市中区)を訪れた19日、岸田文雄首相は議長として先導した。被爆地選出の首相として「核なき世界」をライフワークに掲げ、かねて世界の指導者が被爆地を訪れる意義を説いてきた。ロシアが核の脅しを繰り返す緊迫した国際情勢の中、G7首脳がそろって被爆地を訪問するという歴史的な一日を主導した。(中川雅晴、山本庸平)

 小雨が降る平和記念公園。妻の裕子氏とともに赤いじゅうたんの上に立ち、次々と到着するG7首脳を出迎えた。原爆投下国として険しい表情を崩さない米国のバイデン大統領が近づくと、「グッドモーニング」と自ら声をかけて右手を差し出した。笑顔で記念撮影し、原爆資料館に一緒に入った。約40分間滞在した館内では、首相自ら展示品について説明した。

 首相は信条とする「核なき世界」の実現に向け「(核保有国や非保有国の)立場を超えて具体的な道筋について知恵を出し合うことが重要だ」と持論を唱えてきた。核兵器を持つ米英仏の3カ国のトップが被爆地に集う今回のサミットは格好の舞台となっている。

 2022年5月に広島開催を決めて以降、被爆者と対話し、被爆の悲惨さを伝える遺品の展示に各国首脳が向き合う時間を設けることにこだわった。各国との交渉を指示し、原爆投下国の米国とはぎりぎりまで調整が続いた。16年5月のオバマ元米大統領の訪問時より、4倍近くに滞在時間が増えたのは「首相の強い思い」(外務省幹部)が実現した格好だ。

 首相は、ロシアがウクライナに続ける核威嚇を繰り返し非難する。昨年8月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議にも歴代首相として初めて出席するなど、歴代政権と比べても核兵器廃絶を国際社会に発信する姿勢は際立つ。

 一方で、サミット前日の18日にあった日米首脳会談では、米国の「核の傘」による抑止力強化で一致した。核兵器を「絶対悪」として廃絶を求める被爆者の思いとはなお隔たりがある。残り2日間。被爆地の声を生かした議論を深められるか手腕が問われる。

(2023年5月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ