×

ニュース

『この人』 「ある精肉店のはなし」の映画監督 纐纈あやさん

一家の営み 丹念に描く

 「あなたにどこまでの覚悟があるのか」。そう問われながらも通い詰め、半年後にようやく映画化の承諾を得た。広島市西区の横川シネマなどで公開中の「ある精肉店のはなし」は、大阪府貝塚市の精肉店の家族を追ったドキュメンタリーだ。

 肥育から解体、販売まで手掛ける一家が主人公。職人技の解体作業、家族の絆、活気あふれる祭り…。近くの家を1年半借り、営みを丹念に映し込んだ。

 製作のきっかけは、写真家本橋成一さんの紹介で、ある食肉処理場を見学したこと。牛に全身全霊で相対し、肉にする現場を見て、強い衝撃を受けた。「命と命がぶつかり合う作業の上に私たちの『食べる』はある。敬意を払うべき仕事を描きたい」。家族が闘ってきた部落差別について率直に疑問をぶつけ、解体作業も包み隠さず記録した。

 問われた覚悟を示せたのは初監督の前作「祝(ほうり)の島」での経験があったからだという。原発建設計画に反対する山口県上関町祝島の住民たち。島に住み、寄り添う中で「本当に大切なことを大切だと言い切り、流されずにいるのは時に命懸けだと学んだ。だから今回もやるしかないと思えた」。

 両作品とも登場人物は声高に訴えはしない。ただ、つぶやくような言葉が印象的だ。監督は「理不尽なことと闘って。そのたび自分で向き合い、決着をつけてきた人たちだからこその穏やかさがある」と振り返る。

 「自分の勝手なイメージが壊され、その先に全然知らない豊かなものがあったとき、あっ、これだって思う」。そんな出合いを大切に映画を作り続ける。東京都出身。(余村泰樹)

(2014年3月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ