×

ニュース

静寂 沿道の我慢 進めば警官…なぜか緊張 視界には車列だけ 渋滞に

 静寂の場を物々しい警備で取り囲み、一大イベントは幕を開けた。先進7カ国首脳会議(G7サミット)が始まった19日、各国首脳らが訪れた広島市中区の平和記念公園一帯は厳戒態勢が敷かれた。雨が降る中、首脳を一目見ようと集まった沿道の市民は往来する車列を見届けることしかできず、大規模な交通規制で渋滞も発生した。

 最初の公式行事となった首脳らの公園訪問。公園南側の平和大通りは通行止めとなり、警察車両が集結した。午前10時以降、目隠しのフェンスを張り巡らされた園内に、岸田文雄首相ら首脳の車列が続々と入った。

 中区の小学校教諭細川嘉文さん(57)は「園内に入れず中も見えないが、米国大統領の車だけでも撮影できてよかった。教え子に歴史的瞬間を見せる」とスマートフォンを向けた。

 公園から南に約3キロ延びる市道「吉島通り」は、イタリアやドイツ首脳らの車列が行き来した。10メートルほどの間隔で警察官が車道脇に立ち、公園近くでは間隔がぐっと狭まった。歩道に私服警察官や警察犬の姿もあり、市民らに手荷物検査が実施された。沿道の建物の屋上から目を光らせる警察官もいた。

 中区の会社員女性(27)は「警察官にぎろぎろとにらまれ、緊張した。岸田さんの演説会場での事件もあり、警備もより手厚くなったのだろう」と語った。

 吉島通りでの規制は午前8時20分ごろから断続的に約5時間に及んだ。「30分は待っているが、ここまで長引くなんて」。中区の竹元浩文さん(60)は車で道路を横断できず、予約した眼科に遅れることを電話で連絡した。職場に遅れた人や宅配遅れを懸念する業者もいた。

 広島県警によると、この日は午後3時までに、吉島通りと交差する国道2号など市内3カ所で最大約3キロの渋滞が発生した。交通規制の解除を待って買い物に出かけた中区の会社員小桜孝さん(53)は「警戒レベルがものすごい。不便だけど核兵器廃絶へ前進するなら協力したい」。被爆地で首脳らの実りある議論に期待を寄せた。

陸海空 徹底ガード 元宇品は今 住民「異様な雰囲気」

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)の主会場のグランドプリンスホテル広島がある広島市南区元宇品町(宇品島)。19日にサミットが開幕し、テロや犯罪への警戒態勢はさらに一段階引き上げられた。立ち入り制限が続く中、記者が住民への電話取材などで島内の様子を探った。

 この日は朝と昼、首脳らを乗せた車列がホテルを出入りした。外を歩く住民はほとんどいない。閑散とする雰囲気とは対照的に、沿道には警察官がずらりと並んだ。「散歩しても出会うのは警察官ばかり」。住人の梶矢祥弘さん(87)は電話越しに苦笑した。

 夕方、首脳たちがホテル近くで船に乗り込み、宮島(廿日市市)へ。ホテルを取り囲むように海上保安庁の巡視船やゴムボートが展開し、上空にも警備関係とみられるヘリコプターが確認できた。「陸海空」で警戒を徹底していた。

 サミットに合わせ、町内では企業の多くや保育園が休んでいる。宮本龍一さん(36)はこの日も船舶関係の仕事に励んだが「トラックの音や子どもの声が聞こえず、異様な雰囲気」。住民らが町内に入る際の所持品検査も入念になり、ドライバーや同乗者は検問所で降車を求められた。

 21日には、ウクライナのゼレンスキー大統領がサミットに対面出席する見通しとなった。地元町内会の門隆興会長(80)は「仮に主会場を訪れると警戒は一層厳しくなる可能性がある。何とか平穏に会議を終え、平和な世界への良い方向性を打ち出してほしい」と話した。(下高充生、堅次亮平)

(2023年5月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ